特集

物忘れは脳からのサイン MCI(軽度認知障害)を防ごう。

(2017年8月3日号掲載)

現在、国内に400万人を超える患者がいるといわれている認知症。その一歩手前の状態であるMCI(軽度認知障害)を知っていますか。早期に発見すれば治療も可能というMCIの症状について、聖隷健康診断センターの医師・葛西英二さんに話を聞きました。

聖隷健康診断センター 医師・葛西英二さん
MCI「Mild Cognitive Impairment」(軽度認知障害)

認知症患者と健常者の中間にある段階を指す状態。「物忘れをすることが多くなる」ほか、「反応が鈍く、動作がもたつく」「表情が乏しくなる」「言葉数が少なくなる」「相手の意見を聞こうとしなくなる」といった症状が現れる。

Q. MCIって何ですか?

A. 健常者と認知症患者の中間の段階にある状態をMCIといいます。普段の日常生活は問題なく送れるものの、少しずつ記憶力や物事を考える力が衰えてきている状態です。放っておくと症状が進み、認知症になる可能性が高くなります。MCIの状態でいる期間は人それぞれで、すぐに認知症へと進んでしまう人もいれば、10年以上、同じ状態を保ち続ける人もいます。

Q. MCIになると、どのような症状が起こりますか?

A. 「人との大事な約束を忘れてしまう」「知っている人の名前を思い出せない」といった症状が代表的です。財布や貴重品の置き場所を忘れてしまうといったこともあります。特に数分から数時間前といった短期の記憶が失われやすく、個人が体験した出来事(エピソード記憶)が欠落するケースが多く見られます。本人にも忘れやすくなったという自覚があり、家族や周りの人もその兆候に気付いているという場合が多いです。

Q. 認知症とMCIは違うのですか?

A. 認知症とは脳の機能低下によって、通常の記憶や判断ができなくなり、普通の生活ができなくなってしまう状態を指します。MCIの場合、軽度の記憶障害があるものの、普段の日常生活はそれほど問題なく送ることができます。また、認知症は治すことが困難ですが、MCIの場合は対処すれば2~4割の人が正常に戻ります。治らなくても、その時点の状態を維持したり、症状の進行を遅らせたりすることは十分に可能です。

Q. 自分がMCIかどうかを知る方法はありますか?

A. 血液検査があります。認知症にはさまざまなタイプがあり、最も患者数が多いのは「アルツハイマー型」です。アルツハイマー病はアミロイドという老廃物が脳に溜まることで、神経細胞が破壊され、認知機能に障害が起こる病気です。MCIの血液検査では、このアミロイドを排除する機能を持つたんぱく質を調べることで、MCIのリスクがあるかどうかを判定します。

Q. 採血以外の検査方法もあるのですか?

A. 聖隷健康診断センターのMCIドックでは採血に加え、専門医による認知機能のテストや、MRIによる脳の画像検査を行います。さまざまな角度から得たデータを元にすることで、より精度の高い診断を行うことができます。また、検査後は運動・栄養・保健の各専門職と受診者が個別面談を行い、普段の日常生活の中でできる予防・改善方法を一緒になって考えていきます。

Q. MCIを予防・改善するために必要なことは何ですか?

A. まずは脳に知的な刺激を与えることが大切です。絵を描く、歌を歌うなど、創造的な趣味を持ったり、他の人と関わる社会活動に参加したりするのはとても良いことです。また、糖尿病の人は、健康な人に比べて認知症のリスクが2~4倍高いといわれています。そのため、有酸素運動やバランスのとれた食事なども心がけ、生活習慣病にならないように気を付けることも大事です。

Q. 特に検査を受けた方がいい人はいますか?

A. 脳機能は加齢とともに衰えますから、特に50~60代の方に受けていただきたいです。また、一人暮らしの人は、結婚して同居している人に比べ、認知症になるリスクが1・9倍高いというデータもあります。検査を一度受けて異常がなければ、次回検査まで5年間は空けても問題ありません。今後、高齢化が進むことで、65歳以上でも生き生きと働く人が増えていきます。細く長く活躍するためにも、心当たりのある方はMCI検査で自分の状態を知っていただきたいと思います。

認知症の一歩手前、早期発見で治療もできる

採血検査
アミロイドベータ(アルツハイマー病を引き起こす老廃物)を排除する機能を持つ、血液中の3つのたんぱく質を調べる。
欠乏するとさまざまな神経症状が現れる、4つのビタミンの量を調べる。
甲状腺の状態を調べる。甲状腺ホルモンが欠乏すると認知機能障害やうつ状態が起こる。

神経心理学的検査
集中力や記憶、言語、視空間認知など、さまざまな認知機能を約10分の検査で調べる。
追加MRI検査
アルツハイマー型認知症は脳が縮むことで起こるため、脳の萎縮をMRI画像で調べる。
従来の脳ドック
脳の疾患を調べる頭部のMRI検査や、脳血管障害の有無を詳細に調べるMRA検査を行う。

初期認知症の症状リスト

  • □ いつも日にちを忘れている
  • □ 少し前のことをしばしば忘れる
  • □ 最近聞いた話を繰り返すことができない
  • □ 同じことを言うことがしばしばある
  • □ いつも同じ話を繰り返す
  • □ 特定の単語や言葉がでてこないことがしばしばある
  • □ 話の脈絡をすぐに失う
  • □ 質問を理解していないことが答えからわかる
  • □ 会話を理解することがかなり困難
  • □ 時間の観念がない
  • □ 話のつじつまを合わせようとする
  • □ 家族に依存する様子がある

出典:International Journal of Geriatric Psychiatry
認知症予防テキストブック(日本早期認知症学会発行)

専門スタッフによる指導

栄養指導

糖尿病や高血圧は認知症のリスクになるので、普段の食生活はとても重要。栄養指導では、日常の食生活をチェックして、栄養バランス・間食・甘味飲料・飲酒習慣はどうかを確認する。本人と管理栄養士が無理のない改善方法を決めていく。

運動指導

身体が動かせなくなると、脳への血流量も減って、認知症のリスクが高まる。まずは運動機能の測定を行い、自分の筋力の状態をチェック。どんな運動方法なら、普段の生活の中で無理なく行うことができるか、健康指導運動士と相談しながら決めていく。

保健指導

医師の結果説明から指導を振り返り、疑問や不安に思った点を整理する。病院への受診が必要な人には、本人・家族と相談して受診先を決めていく。

迫りくる"2025年問題"65歳以上の5人に1人が認知症に

現在、認知症の患者数は約462万人といわれています。さらに、その予備軍も400万人いるとされ、団塊の世代が後期高齢者となる2025年には、患者数が700万人を超えるとされています。これは65歳以上の5人に1人が認知症患者、さらにもう1人は認知症予備軍であるという状態です。

このような社会が間近に迫る中、聖隷健康診断センターでは昨年、採血やMRI、医師診察から健康指導まで、さまざまな診断を組み合わせた独自のMCIドックを県内で初めてスタートさせました。認知症を減らすために最も重要なのは、認知症の前段階であるMCIの人を少しでも早く見つけ出し、早期に対処することです。深刻な症状が出る前に生活改善を行えば、脳機能の低下を極力遅らせることができます。

みなさんも自身の健康状態をしっかりと把握していただき、自分の状態にあった方法で予防・改善に努めていただければと思います。

聖隷健康診断センター 事務長 植田芳文さん

〈参考資料〉
聖隷健康診断センター MCIドック
通常の脳ドックに、MCIのための検査項目+3週間後の医師結果説明・運動指導・栄養指導・保健指導をプラスして、100,000円(税抜・保険適用外)で検査を受けることができる。
聖隷健康診断センター MCIスペシャルドック
通常のスペシャルドックに、MCIのための検査項目+3週間後の医師結果説明・運動指導・栄養指導・保健指導をプラスして、120,000円(税抜・保険適用外)で検査を受けることができる。

取材協力/聖隷健康診断センター 浜松市中区住吉2-35-8
tel.0120-938-375(月~金曜8:30~17:00、土曜8:30~12:00)