暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.2

田植えの季節のトンボ ヒメサナエ-姫早苗-

(2017年5月25日号掲載)

新緑を思わせる体の色

まだ冷たい空気の残る朝。夏鳥のさえずりを聴きながら川べりの草原を歩くと、人の気配に気づいてフワリと飛び立つ虫がいる。光に反射して、淡く虹色に輝くその翅(はね)に思わずハッとする。サナエトンボの仲間、ヒメサナエだ。翅のキラキラは羽化したてのトンボにだけに見られる現象だ。弱々しい飛び方も、羽化したばかりと聞けば納得。川の浅瀬の小石の上では、水から上がったヒメサナエのヤゴが羽化を始めている。

トンボといえば、まっ先に思い浮かべるのは、真夏のイメージのオニヤンマや秋空を連想させる赤トンボではないだろうか。サナエトンボはその名に冠した「早苗」の通り、新緑美しい爽やかな田植えの時期にあらわれるトンボの仲間だ。ヤンマや赤トンボは二つの目が接しているが、サナエトンボは離れているのが特徴のひとつ。体の色もオスは黒地に青味がかった黄緑色をしているものが多く、どこか新緑を思わせる。同時期に羽化するサナエトンボは何種かいるが、ヒメサナエは中でもやや小さい。

出会えたらラッキー

ヒメサナエは川の中・下流域で羽化後、すぐに川の上流の山へ飛んで行く。そのためトンボの姿になったヒメサナエを見かける機会はかなり少ない。

ヤゴは、5月中旬から6月初旬頃までの間に集中して羽化する。だからその時が成虫を見るチャンスといえるのだ。羽化時、小さくまとまっていた翅が伸び、重なっていた4枚の翅がパカッときれいに開くと、水辺から飛び立つのだが、一旦、近くの草むらや木の上にとまることもある。しばらく休んで成虫の体になるための仕上げをしているようにも見える。見通しのよい河原では、鳥などに襲われてしまうからかもしれない。

山へ行ったヒメサナエは川の上流部で産卵し、ふ化したヤゴは成長しながら川の流れにのって中・下流までくだるという。サナエトンボの仲間は、すみかとなる環境が種類によって泥、砂、砂利などそれぞれ違うのだが、ヒメサナエのヤゴは川底が小石や砂利の場所がお気に入りなのだ。ただ、昨今の河川環境の変化により、ヒメサナエが受ける影響も少なくないようだ。

天竜川支流や太田川の中流域なら、ヒメサナエや、場所によっては他のサナエトンボにも会えるかもしれない。朝の散歩で、キラキラの翅に出会えたなら、その日はきっといいことある!?

文・イラスト 環境学習指導員 瀬下 亜希