グルメ

郷土の味(連載:第14回)

葛湯(くずゆ)

(2017年3月2日号掲載)

心も体も温かくなる、掛川の歴史が詰まった一杯。

体が温まる、やさしい味。葛の根を原料にした「葛湯」は、掛川で老若男女問わず愛されている郷土の味だ。

山に自生する葛はマメ科の植物で、あらゆるところにツルを伸ばす。このツルから繊維を取り出して作る葛布は、かつて掛川の特産物だった。江戸時代には着物の素材として重宝され、明治・大正期には海外へ輸出するほどの品質を誇った。

「昔から葛のツルは葛布に、根は葛粉にして使われてきました。この葛粉を、お湯で溶かしていただくのが葛湯です」

そう話すのは、掛川の城下町にある「桂花園」の女将・中村泰子さん。同店は、明治から葛湯を作り続けている老舗の和菓子屋だ。店の軒先には、四角く固められた葛粉の袋がいくつもつるされている。

「昔はどの家もこうして葛粉を吊るして、保存していたの。見た目が豆腐に似ているでしょう?だから葛は一丁、二丁と数えるんですよ」

昔ならではの筒袋で販売されている桂花園の「丁葛」

現在はお菓子として親しまれている葛湯だが、かつては常備薬として各家庭に保存されていた。葛の根には解熱や整腸作用などの効果があるといわれ、今でも漢方の生薬として使われている。

繁殖力が強い葛は、根っこもビッグサイズだ。大きいものでは1・5mほどの長さにもなる。葛粉はこの根を叩いてもみ洗いし、水に漬け置く作業を繰り返して取り出す。タライの底に沈殿したでんぷんを、乾燥させたものが葛粉の正体だ。これを砂糖と混ぜ合わせれば、葛湯の素の出来上がり。

「お湯を入れるととろみが出るのは、葛粉がでんぷんで作られているからです。湯にサッと溶けるよう、乾燥させる時の湿度にも気を使っていますよ」

店の軒先につるされた葛粉の袋。かつてはこうした風景が至るところで見られたという

そんな中村さんに、葛湯のおいしい作り方を教えてもらった。

まずは空の湯呑に、沸騰した湯を入れてしばらく置く。湯呑が十分に温まったら湯を捨て、葛粉を入れる。熱湯を一気に注ぎ、匙で手早くかき混ぜる。この作業がなんとも楽しい。とろみが生まれ、葛湯に透明感が出れば完成だ。

「和紙で作った袋に葛粉を入れて、紙ひもで結ぶ。これも昔から変わらずに続けていることの一つです」

店内には、素朴な筒袋に収められた葛湯が並ぶ。その脇には、葛粉を一つひとつ手作業で袋詰めする職人たちの姿があった。

取材協力/桂花園