コラム

青木明子 アートの力 最終回

アートの伝え方

(2018年3月8日号掲載)

少し寒さの緩んだ2月初め。静岡県舞台芸術センター(SPAC)の方々と、浜松市立中ノ町小学校5年生68名を対象にした、プロの俳優によるワークショップを実施しました。テーマは「伝えること」です。

演劇のワークショップといっても、演劇を観たり、演じたりするわけではありません。まず行ったのは「エア長縄跳び」です。俳優たちが縄を回す振りをし、子どもたちは見えない縄の回転に合わせ、入って跳びます。

縄をよけて中に入れない子、助言する子、引っかかって転ぶ子、それを助ける子、それらの光景に笑いあう子。見えない縄なのに、どうしてよけようとするのでしょうか?日常の行動と、演じることの差を無意識に体感できるプログラムです。

次に行ったのは、「歩行」のワークショップでした。区切られた区間内を、「大股で」「かわいく」といったお題に合わせて歩きます。同じお題でも、歩き方は個性豊か。「猫になる」では、なぜか猫歩きに鳴き声が加わりました。鳴き声で話している猫仲間も現れました。誰も「演じてください」と指導していないのに、児童たちはみんな見事な演じ手になっているのです。

これらワークショップの隠れたテーマは「伝えることと、伝わることの差異」です。子どもたちは知らないうちに「何かを伝える時は、伝えたい他者がいること」を体で理解することができました。

このように、アーティストが市民向けのワークショップを行うことは、何かを制作したり、演じたりすることと同様に大切な彼らの役割だと思います。市民はワークショップに参加することで、身の回りの環境や自身の心について新たな気付きを得ることができます。それが興味の連鎖となり、何かが生み出されるきっかけとなります。

新年度に向けて、国や地方自治体から文化振興基本計画が打ち出されています。オリンピックイヤーが近づき、市民が文化・芸術に触れる機会も増えてきました。それらを鑑賞し、体験した後、私たちは何を生み出していけるのか?そんなことを考えながら、アートマネージメントを続けようと思います。

昨年2月から本コーナーにお付き合いくださった皆さまと、駄文の構成を担当してくださった編集部の皆さまに感謝いたします。