コラム

菊野教授の人づきあいの秘訣【第1回】

すぐ怒る子に「ゆとり」を持たせるワーキングメモリのススメ

(2017年4月27日号掲載)

静岡産業大学教授 博士(心理学) 菊野春雄

すっかり過ごしやすい季節になりましたね。今春、お子さんが入学・入園された方もいらっしゃることでしょう。子どもが成長していく姿を見るのは、親にとってはいくつになっても嬉しいものです。しかし一方で、子育てはなかなか大変ですよね。特に同世代の子ができることができなかったりすると、心配になったり不安になったりします。

私はこれまでに、子どもが物事をどのように認識し理解するのか、またその仕組みが大人と子どもでどう違うのかなどを、認知心理学・発達心理学の観点から研究してきました。その中からここでは主に、日常生活に不可欠な人と人との"コミュニケーション"についてご紹介していきます。第一回となる今回は、「ワーキングメモリ」についてお話しします。

子どもがすぐ友達を叩いてしまう。あるいは怒るとすねてしまう。そんな悩みを持つ親御さんはおられませんか。このように短絡的に見える行動を起こす原因にはさまざまな仮説がありますが、その一つに、「ワーキングメモリの少なさが原因」という考え方があります。

ワーキングメモリ(以下:WM)とは、脳の機能の一部で、"作業記憶"とも呼ばれています。私たちは、何か行動を起こすときに、次の行動を「イメージ」し、「判断」します。このイメージと判断をする場所がWMです。WMの容量は人によって違いがあります。たとえば家事が得意で、同時にいくつものことをこなせる人は、WMの容量が大きいと考えられます。

子どものWMの容量が少ないと、自分の玩具に友達が触ったとき、「自分の玩具を取られる」という1つのことしかイメージできず、友達を叩いてしまう行動につながったりします。このような場合、その行動を"叱る"のではなく、子どものWMの容量に"ゆとり"を持たせる配慮が大切です。一例を挙げると、お手伝いをしてもらうときに、1つの用事だけではなく「冷蔵庫からジュースを取って、そこの窓も閉めてちょうだい」と、同時に2つの物事をさせる経験も、WM にゆとりを持たせるには有効です。こういった経験を積むことで、同じことがあっても「自分の玩具を取られる」だけではなく「友達が自分と一緒に遊ぼうとしているのかもしれない」など、2つのことをイメージできるようになり、以前とは違った行動をするかもしれません。子どものWMの容量はもともと少なく、成長する過程でゆっくりと育っていきます。WMを少し意識した子育てを心掛けてみてはいかがでしょうか。