コラム

青木明子 アートの力 Vol.7

現代に必要な"変化するアート"

(2017年9月14日号掲載)

8月の初め、浜松在住のアーティスト・乾久子さんが企画した「くじびきドローイング」をデイケアセンターで実施しました。これは、まず参加者がくじを引いて、そこに書かれたお題の絵を描きます。その後、次に体験する人のために、新しいお題のくじを作ります。これまで掛川、磐田、静岡、いわき、春日井、浜松と各所を巡回してきました。知らない地域の人が決めたお題の絵を描くという、人や場所をつなげることを目的としたアートワークです。

今回は約40名の高齢者の方が参加してくれました。くじのお題は「リンゴ」「車」など具体的なものから「佇む」「愛」といった抽象的なものまでさまざまです。「邪馬台国の卑弥呼」「仮面ライダーとプリキュア」を引いて戸惑う人、「とり」のお題で落語家の絵を描く人(寄席のトリかな?)、お題を忘れてガツガツ描く人。ユーモアや粋が飛び出し、一人ひとりの個性が浮き出てきました。

「おじいちゃんの絵を、みんなのと並べて飾ったよ」と言うと「どれどれ、見にいかにゃ」と立ち上がって歩く人もいました。それを見た職員は「歩けたの!」とびっくり、慌てて介助に走ります。事前に施設を下見した時は、もの静かなお年寄りが多い印象でしたが、当日はみんな別人のように生き生きしていました。

職員の方も体験を通じて、知らなかった利用者の過去や性格が分かり、会話が弾んだ様子でした。高齢者の方たちはこれまで、体や認知機能に不自由があることを負い目に感じて、自分の思い出や、職員への要望などを口に出すことを遠慮していたのかもしれません。

このように「くじびきドローイング」は、その場にいる人々のさまざまなコミュニケーションを誘発し、気持ちをざわつかせます。参加者の自由な振る舞いを認め、交流の敷居を下げ、多様性を広げていくところに可能性を感じます。

絵画や彫刻のような固定化した作品ばかりがアートではありません。それ自体が変化を伴いながら人や社会、環境との関係性を変えたり、固定概念を転換させたりする活動もアート作品の一つです。これらは「アートワーク」「ソーシャルアート」などと呼ばれています。従来の経験や価値観が通用せず、先行きが見えない現代に必要なアートだと思います。

※「くじびきドローイング」はウェブサイトがあります。検索してみてください。