コラム

青木明子 アートの力 Vol.7

アーティストが地域に教えてくれたこと

(2017年10月12日号掲載)

鴨江アートセンターでは館内にある20㎡の部屋を、アーティストたちに制作場所として4カ月、無償で提供しています。

6月~9月、ダンスカンパニー「ときかたち」を主宰する尾花藍子さんが、205号室に入りました。尾花さんは普段、東京に活動拠点を置き、浜松とはこれまで縁がありませんでしたが、昭和3年築の建物と浜松に興味を持ち、入室を希望してくれました。

入室後、彼女は施設や浜松の歴史を調べ、出会った人たちにヒアリングをし始めました。そして、身体感覚を軸としたワークショップ(以下WS)を繰り返しました。

私が参加したWSは、呼吸や心臓の鼓動を感じながら身体を認識したり、声を共鳴させて他者を察知したりと、言葉を使わずに会話をするというものでした。これらの体験は、普段、身近すぎて気づかない自分の体や感覚について改めて考え直す機会となりました。

これらのWSで得られた感覚の蓄積を、彼女は木や石、紙類といった物質に変換し、205号室を活用したインスタレーションに仕上げました。"「身体」をみつめて、「変化とは何か?」を問う"をテーマにしたこの作品は、展示品の脇にQRコードがついていて、携帯電話で読み取るとWSの画像が再生される仕組みになっていました。

この作品を作る最中、彼女の口から「蓄積」と「変換」という単語がこぼれ落ちました。その瞬間、私の心はホクホクでした。見事に浜松の現状を読み取り、足りないものを示してくれたと思ったからです。

私は日頃、アートセンターの仕事をする中で「ものづくりのまち」の行き詰まりを感じていました。尾花さんも今回の制作活動を通じて「浜松の人は自分を定型フォーマットに当てはめる人が多い」という感想を持ったそうです。だからといって、既存のフォーマットを使って小賢しく「変化」を促してもうまくいくとは思えません。そうではなく、フォーマット自体を何か別の物に「変換」する必要があるという気づきを、彼女の作品は私たちに与えてくれたのです。

では、これまで浜松が築いてきたものづくりの蓄積を、何に変換できるのか?それは今まさに地域のアートセンターとして思案している真っ最中です。