教育

研究室にようこそ!地元大学の研究者にインタビュー

第1回 浜松医科大学教授 針山孝彦さん(生物学)

(2014年9月11日号掲載)

電子顕微鏡で生き物の観察に成功

世界が注目!「ナノスーツ」って何だ?

針山孝彦さん――「ナノスーツ」ってかっこいい響きですね。一体どんな技術なんですか?
針山 生きた状態の生物を、電子顕微鏡で観察できる技術です。電子顕微鏡って、普通の光学顕微鏡と違って、観察したいものを真空の空間に閉じ込めないと見られないんですよ。だけど、真空の中に生物を入れると、水分を奪われて干物になっちゃう。電子顕微鏡が作られてから半世紀以上、研究者はずーっとこの問題に悩まされてきたわけです。

ショウジョウバエの幼虫を電子顕微鏡でみたところ。右の写真の白い膜が「ナノスーツ」だ。ナノとは10億分の1を指す単位のこと

――どうやって解決したんですか?
針山 とにかくいろんな虫や微生物を、電子顕微鏡の中に入れてみました。そしたらショウジョウバエの幼虫だけは死なずに動いていたんですね。調べてみると、幼虫は電子顕微鏡の発する電子線を浴びた時に、体の表面に薄い透明な膜を張って身を守っていることが分かった。この薄い膜液を、界面活性剤を使って人工的に作り出したのが「ナノスーツ」です。

――成功した時はどんな気持ちでした?
針山 嬉しさはあったけど、半分は怖かったなあ。世界中の人ができなかったことをやってしまったわけなので。研究って基本的に失敗ばかりなんですよ。だから、研究チームの仲間同士で「絶対うまくいくよ」と励まし合っていないと気が持たなかった(笑)。

電子顕微鏡は電子線を使って対象物を観察する道具。約100万倍の倍率で、原子も見ることができる

――この技術を使うと、どんなことが分かりそうですか?
針山 例えばウイルスを観察することで、どのようにして感染が起こるのかを調べられるでしょう。筋組織や血球といった細胞も見られるから、がんなどの研究にも役立てそうです。

――そもそも「生きている」ってどういう状態なんでしょう?
針山 物理学には、秩序のあるものは時間とともに崩壊していくという「エントロピーの法則」があります。だけど、生き物を電子顕微鏡で見ると、すごくキレイに細胞が並んでいるんですね。物理現象に逆らって秩序を生み出すこと、それが「生きている」ということだと僕は考えていますよ。