教育

子どもに伝えたい遠州の民話(第6話)

エベッサマときさの神 -浜松市西区舞阪-

(2017年5月25日号掲載)

遠州地方には不思議な民話がたくさん残っています。今回のお話は、浜松市の舞阪に残る「エベッサマときさの神」です。

姫神が落とした砂の一粒一粒が、赤貝や蛤(はまぐり)に変わりました。

昔々、きさの里に親孝行の漁師がいました。名前は弥七。少しばかりの畑を耕し、魚を釣ったり、貝を採ったりして、のどかに暮らしていました。

母親は浅瀬で蛤や赤貝を採るのが評判の腕前でした。弥七は子どもの頃から母親と一緒に貝採りをしてきたので、今では母親にも負けないほどの腕前になっていました。

赤貝と蛤の神様をまつる舞阪の岐佐神社

ある年の夏、大きな地震・津波が起きました。弥七は母親の手を引いて懸命に近くの小高い丘へ逃げました。

津波が収まってから浜に出てみると、浅瀬は砂で埋まり、貝はさっぱり採れなくなりました。弥七は漁をあきらめて、とぼとぼと歩きました。すると、砂の中に何かが埋まっているのを見つけました。

それは木でこしらえたエビス様でした。弥七は家へ持って帰り、きれいにふいて神棚にまつりました。エビス様は、またの名をコトシロヌシの神といいます。オオクニヌシの子どもです。

両親も弥七も毎日、エビス様に祈りを捧げていました。しばらくたった夜のこと。弥七が寝ていると、誰かが肩を叩くのです。目を開けると、なんと枕元にエビス様が座っているではありませんか。

「弥七や、よくぞわしを拾い上げてくれた。何か一つだけ願いごとをかなえてやろう」

弥七は貝が採れなくなった浜を、元に戻してほしいとお願いしました。すると、エビス様が言いました。

「わしの父、オオクニヌシが命を落としたとき、生き返らせてくれたのが貝の神様なのだ。父を助けてくれたキサガイヒメとウムガイヒメにお願いしてみよう」

次の日の明け方、東の空がぱっと明るくなり、羽衣をなびかせてキサガイヒメとウムガイヒメが地上に降りてきました。キサガイヒメは赤貝の神、ウムガイヒメは蛤の神です。二人の姫神は水辺の浜砂をすくい取ると、お祈りしながら手のひらから、ぽとぽと落としていきました。すると、砂の一粒一粒が赤貝になり、蛤になり、辺り一面は、貝が育つ浅瀬に変わりました。

弥七は浅瀬に出て貝を採ると、すぐにカゴいっぱいになりました。その話を聞いて、きさの里の人びとが一斉に浅瀬で貝を採り始めました。神様に感謝した里の人々は、小高い丘の上に社を建てました。社の名前を岐佐(きさ)神社と名付け、いつまでも手厚くおまつりしましたとさ。

今回の語り部/舞阪郷土史研究会 鈴木五十廣さん