教育

子どもに伝えたい遠州の民話(第7話)

葛布(かっぷ)の赤牛 -周智郡森町葛布-

(2017年7月27日号掲載)

遠州地方に残る数々の民話を紹介するこのコーナー。今回は森町にある滝にまつわる「葛布の赤牛」を紹介します。

大きな赤牛が大蛇を背に乗せ、流れに乗ってやってきました。

森町から少し山あいに入ったところに、葛布という小さな村があります。ここを流れる川の上流には美しい滝があり、昔から滝の主が住んでいると伝えられてきました。

今から三百年ほど前のこと。その年の夏は大変な日照りが続いて、村中の田畑はカラカラに乾いてしまいました。村に住んでいた黒兵衛は、村人たちを集めて雨乞いをしようと相談しました。しかし、祈祷の効き目はなく、わずかな雨が降るだけでした。

黒兵衛は村人たちの困った様子を見て、じっとしてはいられませんでした。「少し荒っぽいかもしらんが、しょうがない」と言って、裏の離れに入って行きます。そこの床に敷いてある古く汚れた "むしろ" に、辺りに散らばっているものをくるんで、滝へと急ぎました。

滝に着いた黒兵衛は、むしろを滝壺に投げ込むと、腰まで水に浸かりながら踏みつけ、何かを唱えました。

三倉川の支流・葛布川にある「葛布の滝」。地元の名瀑で赤牛伝説が残る

「これでよし」とうなずき、帰り道を急ぐ黒兵衛。家に着くころには黒雲が覆い始め、やがて大粒の雨が降り出しました。雨は次第に激しくなり、濁った川の水は勢いを増すばかりです。

「これは、ちょっとやりすぎたかな」と黒兵衛はつぶやきました。その時です。荒れ狂った流れの中、川の上流から、大きな赤牛が大蛇を背に乗せてやってくるではありませんか。黒兵衛が滝を汚したのを怒って出てきたのでしょうか。赤牛は黒兵衛の近くまで来ると「黒兵衛、さらばじゃ」と言いながら、水を巻き上げ、大雨の中を消えていきました。

黒兵衛はガーンと何者かに頭を打ちのめされ、倒れてしまいました。そして、うなされたようにうわ言を続けた後、息を引き取ってしまいました。

大雨の夜、黒兵衛のお通夜が行われました。ところが、みんなが眠っているすきに、黒兵衛の死体はどこかに消えてしまいました。村人たちは滝の主のたたりだと恐れました。

あくる日、雨が止んで村人たちは辺りを探すと、やっとのことで滝の近くにあるカヤの木にかかっている黒兵衛を見つけました。村人たちは、命がけで雨乞いをした黒兵衛をねんごろに弔いました。その日から水は治まり、村は再び静かになったといわれています。

取材協力/森町教育委員会 出典/森町ふるさとの民話