グルメ

料理人のこだわり プロの道具

スチール棒

(2012年11月22日号掲載)

フランス修行で交わしたサムライ魂 シェ・モリヤ 守屋金男さん

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浜松でフレンチの重鎮として活躍を続ける守屋金男シェフも、35年前はやはり見習いの身だった。浜松での修行を終え、研鑽を積むためにフランスへ。勝手が違う本場の厨房で出会ったのが、一本のスチール棒だった。

ある日、事件は起きた。見習い仲間が、日本から持参した守屋さんの包丁を欠いてしまったのだ。欧州の刃物はとても丈夫で、日本では“料理人の魂”といわれる包丁の扱いも粗末なのが日常だ。

皆が動揺する中、守屋さんは無言で砥石と向き合いシュッ、シュッ――

数分後、鍛錬された両刃は再び輝きを取り戻した。刃物を意のままに操る『サムライ守屋』に集まる羨望のまなざし。「むこうは合理的で、包丁の切れ味が鈍った時だけスチール棒にシャッシャ、とこすり付けて研げばおしまい。だから私が砥石で研ぎ始めると仲間は“サムライみたい”と珍しがりましたよ」。包丁を欠いてしまった誇り高きフランス人の仲間もこの時ばかりは「モリヤの包丁と砥石を譲ってくれ」と迫ったという。その時、彼と交換したのがこのスチール棒だ。

重さ680g、ズシリと重くブランド品でもない武骨なスチール棒だが、これ以上に愛着のある道具はない。「持つたびに修行時代を思い出します」とハンドルを握りしめる守屋さん。シェフの傍らでは、今日も相棒が出番を待っている。

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シェ・モリヤ
浜松市中区板屋町2シティータワー浜松1F
TEL053-454-0888
カウンター席のあるフレンチレストラン。看板メニュー「トマトのムース」を求めて全国から訪れるファンも多数。ランチ1490円~、ディナー2940円~。