グルメ

郷土の味 連載:第1回

遠州焼き

(2015年10月1日号掲載)

薄い生地にたくあん入り。

遠州焼き

写真/駄菓子屋あつみ(浜松市中区広沢1丁目)「昔食べた味を今の子どもたちに」と昨年駄菓子屋を始め、遠州焼きを150円で提供している

遠州地域で食べられてきたお好み焼きを「遠州焼き」と言うようになったのは10年ほど前のこと。そもそも、戦前からこの地に伝わる特有のお好み焼きは「お好み」と言って親しまれてきたので、「遠州焼き」と呼ぶ人は多くはない。つまり、遠州焼きは他の地域のお好み焼きと区別するために付けた、いわば"外向け""後付け"の名前というわけだ。

ネーミングの由来は、当時ブームになり始めたB級グルメとの関連がありそうだ。トリイソースが作った「遠州風お好み焼きソース」が浜松市のやらまいかブランドに認定されたのもこの頃のこと。当初は「遠州風お好み焼き」と名付ける店が多かったが、後に「遠州"風"はニセモノっぽい(笑)」ということで「遠州焼き」の名が定着したようだ。

では、遠州焼きに定義はあるのか。地元っ子なら、誰もが「薄くてたくあん入り」と即答する。具にたくあんを入れるのは、どの家にもある常備菜だったから。特に戦後の食糧難の時代にも、浜松市北部から富塚地区まで広がる三方原台地では引き売りが行われるほど大根を栽培していたそうだ。ほかの具材にねぎやしょうがを挙げる人もいるが、たくあんは絶対に欠かせない。

作り方は簡単。うどん粉(小麦粉)を水で溶かしたものに刻みたくあんを入れて鉄板で焼くだけ。味付けは"ソース派"と"しょうゆ派"がある。ソースもウスターソースのようなあっさり味だったらしい。ペラペラに薄いので、焼けたら二つ折りか三つ折りにするのが基本だ。

うどん粉だけなので食感はモチモチ。卵はぜいたく品で「卵が手に入ったら、お店で入れてもらった」と懐かしむ人も多い。今でこそ、キャベツを入れたり鰹節を掛けたり、卵を生地に入れたりするが、もとは「貧乏焼き」という別名を持つほど安く、子どもが小遣いで買える駄菓子屋のおやつにルーツを持つお好み焼きなのだ。

懐かしの"遠州焼き"

喜田芳子先生

料理研究家 喜田芳子先生
いわゆる遠州焼きは戦前からありましたよ。東海道の宿場町だった舞阪に江戸時代から続く「おきん茶屋」が、戦前は駄菓子屋になっていて、冬はお好み焼きを出してくれました。
うどん粉を薄く溶いたものをアルマイトのカップに入れて、おこうこ(たくあん)を刻んだものとねぎを入れるだけ。鉄板に円を描くようにのばして焼いてもらうの。ひっくり返すのをやらせてもらうのが楽しみでね。しょうゆを塗ってできあがり。四つ折りにして新聞紙にくるんでもらって、フーフー言いながら食べましたよ。お小遣いを握りしめて、幼稚園や小学校の帰りにお店に走ったものでした。

作り方

①うどん粉を水でうすく溶く。
②刻みたくあん、ねぎを入れて混ぜる。
③鉄板に油をひく。
④②を薄くのばし、しょうがを乗せる。
⑤ひっくり返し、適当なタイミングでソースまたはしょうゆを塗る。
⑥折りたたんで出来上がり。