グルメ

郷土の味(連載:第3回)

掛川いも汁

(2016年1月7日号掲載)

自然薯と鯖(さば)のみそ汁

掛川市大渕地区では晩秋に入り、人が集まる機会があると「そいじゃあ、今日はいも汁やるかー!」の声が挙がるという。地域で受け継がれてきた風習が、今も強く残っている。

掛川のいも汁は自然薯を皮ごとすりおろし、鯖の味噌汁を合わせたものだ。自然薯は市内の倉真地区や小笠山に自生していて、11月になると収穫が始まる。この時期を心待ちにする人も多い。

一般的なとろろ汁は鰹だしを使うが、掛川いも汁は鯖の味噌汁と合わせるのが特徴。「なぜ鯖か?」の謎は解けなかったが、鯖が獲れる時期であり、適度な脂が自然薯のコクを引き立てることも理由だろう。ちなみにいも汁をやるとき、男衆は女衆に「出汁を買ってこい」と言うが、このときの「出汁」は「鯖」を意味する。そして、鯖の味噌汁を作るのはいも汁の時だけで、普段作ることはない。

自然薯をすりおろすと、いも独特の香りが強く立つ。中には「土のような香り」と表現する人もいて、これがクセになると言う。最初は皮ごとおろし金ですり、さらにすり鉢に移してすり続ける。粘りが強いので、かなり力のいる仕事だ。そのため、自然薯をするのは男の役目。子どもたちはすり鉢を支え、女は味噌汁を作るというように、家族では役割が自然に決まっている。

明治の頃は集落で集まりがあるたびに味わったそうだが、核家族化が進み、こうした機会は減ってきた。とはいえ、大渕地区では消防団、青年団、親せきの集まり、お祝い事など行事があれば「やるか」ということになるのは変わらない。たくさん作ったらご近所におすそわけする風習もそのままだ。

力仕事は男の役目。親がいもをすり、子がすり鉢を支える

このいも汁を掛川市が郷土料理としてアピールを始めたのは10年ほど前のこと。大河ドラマで掛川市が注目された際に郷土の味を見直したところ、昔から食べられてきたいも汁を再認識したのだ。現在、市内でいも汁を味わえる店は10軒以上ある。まさに郷土の味だ。

仕事そっちのけで掘るよ

渥美 晃さん、耕一郎さん

渥美 晃さん(右)、耕一郎さん
11月も半ばを過ぎると、自分ちの山で自然薯を掘るのが楽しみでね。農作業をしながらも、いもの葉やつるを見つけると、そっちが気になっちゃって。仕事そっちのけで掘ることもあったよ。深い所まで穴を掘って、傷がつかないように引き上げるのが一番の楽しみ。1mもある自然薯だと、掘るうちに穴の中で逆さになっちゃって、足を引っ張ってもらったこともあるよ。  孫の耕一郎は8歳の頃から一緒に掘っているけど、自分と変わらんね(笑)。今じゃ良いのを見つけて上手に掘ってくるよ。それと、やっぱりいも汁は大勢ですり鉢を囲むのがいいね。

作り方

  1. 自然薯を洗って干す(土を落とす)。
  2. いものヒゲを炙る(残るとイガイガする)。
  3. 芋を皮ごとすり下ろす。
  4. 鯖の味噌汁を作り、少しずつ混ぜていく。

取材協力 掛川市商工観光課、掛川観光協会、椎の木茶屋