グルメ

郷土の味(連載:第5回)

袋井宿たまごふわふわ

(2016年3月3日号掲載)

江戸時代の卵料理を再現

居酒屋どまん中の"たまふわ"は
ふわふわ卵の下にしっとり卵が現れる

土鍋の蓋が少し浮き上がってきた。「もういいよ」の声で蓋を開けると、卵のふんわりドームが現れた。まるでお菓子のようだが、れっきとしたおかずである。ふわふわの卵をすくうと下から出汁が顔を見せ、やさしいハーモニーを生み出す。これが「袋井宿 たまごふわふわ」だ。茶わん蒸しの前身ともいわれ、江戸時代の名物料理だったという。

東海道五十三次のど真ん中、袋井宿。その大田脇本陣の朝食でたまごふわふわが出されていたという記録が見つかったのは2006年のこと。「これこそ、郷土の味だ!」と袋井市観光協会とまちの有志が再現を試みた。しかし、写真はもちろん絵図も残っていない。江戸料理研究家の協力で出汁と卵を使うことはわかったが、見た目はどういう姿なのか。何とも不思議な「ふわふわ」という名は、なぜ付いたのか。

江戸時代、袋井は宿場町だった
(歌川広重/袋井 出茶屋の図)

「鰹出汁の上に泡立て卵が浮いている吸い物?」「卵焼きが浮いた汁?」...さまざまな試みはいずれも失敗。「蓋を開けたらふんわり卵が膨らんでいるといいよね」と泡立て卵を出汁に注いで蒸してみたが、卵が硬くつぶれていることも。泡立て方と蒸し時間のタイミングをつかみ、ふんわりドームが実現したのは、半年後の2007年。そのノウハウを携え、第2回B-1グランプリに出場し7位入賞。見た目の珍しさと今までにない食感で話題となった。

現在、袋井市内の7つの飲食店で味わうことができ、店ごとに個性がある。卵の泡立てはミキサーを使うのが現代版だが、今もなお手で泡立てている店も。 進化を続ける"たまふわ"はケーキやジェラートなどにもアレンジされ、ラーメンとのコラボも生まれた。

一方、子供たちに伝える動きもある。袋井西小学校では食に関する学習の中で、たまごふわふわの学習と調理実習が行われてきた。また、観光協会も小学生対象の夏休み体験ツアーでたまごふわふわの調理を行っている。出来たての感動が家庭に広まったとき、本当の"郷土の味"となるに違いない。

作り方(1人前)

  1. 1人用土鍋に出汁200㏄を入れ煮立てる。
  2. 卵1個に砂糖少々を加え、クリーム状になるまでよく泡立てる。
  3. 1.の火を止めて表面の粗熱を取り、2.を土鍋の縁からぐるっと中心に向かって一気に落とし込む。
  4. 蓋をして弱火で10秒蒸らす。
  5. 火を止める。蓋が少し浮き上がったら出来上がり。

先人の知恵を未来につなぎたい

静岡県観光協会専務理事
元・袋井市観光協会会長
太田忠四郎さん

先人の知恵を生かし、次代に伝えることが大事。だから、地域にある良い物を調べている中で "たまふわ"を見つけたときは「これだ!」と思った。素材は出汁と卵とシンプルだけど、出汁は料理の原点。しかも名前の響きがいい。

とはいえ、資料から"復元"するのと違い、名前から"再現"するのはなかなか難しかったね。B-1グランプリやB級グルメを通じて、全国の皆さんに喜んでいただけてうれしいけれど、実は地元の子どもたちにもっと知ってもらいたい。そして、大人になったとき、"たまふわ"を家庭で作ってくれたらうれしいよね。

協力/袋井市観光協会