グルメ

郷土の味(連載:第6回)

とじくり

(2016年4月7日号掲載)

左が小麦粉、右がそば粉を使ったとじくり。
粉の種類や分量、味は家ごとに異なる

4月8日は花祭り。お釈迦様の誕生日だ。この日、浜松市天竜区の佐久間町と水窪町の一部の地区では必ず仏壇にお供えするものがある。それが「とじくり」だ。炒った大豆と米を柔らかく煮て、甘味とそば粉を加えて丸めるという、素朴なだんごである。大きさは手のひらサイズ。炒った大豆の風味が香ばしく、そば粉の香りも楽しめる。

とじくりの名は、具をまとめることを意味する「とじる」という言葉から付いたもので、栗が入っているわけではない。花祭りの日に作るのは、表面にぽつぽつ出ている大豆がお釈迦様の螺髪(らほつ)に似ているから。別名「釈迦つむり(釈迦の頭)」の所以である。

とじくりは江戸時代にはすでに作られていた。佐久間・水窪の2地区に限られているのは、相互に嫁入りした風習と関係がありそうだ。とはいえ、佐久間町内でもとじくりを作るのは奥領家と相月の一部の地区だけで、ほかでは作らない。

「お釈迦様の頭だで、よい子よい子して丸めるだよ」
と明治生まれの祖母に教わったそう

奥領家では昔から自分たちの食べる物を畑で自作してきた。大豆、米、ソバ、キビ、茶。ソバは山で木を伐採した後に焼き畑を行い、そこで栽培したという。収穫したソバを大きな石臼で粉にするのは子供たちの役目。大みそかに年越しそばを打つように、花祭りにはとじくりを作る。親が忙しければ子どもが作る...当たり前に行われてきた習慣だ。

佐久間町の女性グループ・野田やまびこ会は、平成2年から北条峠(ほうじとうげ)の佐久間民俗文化伝承館で、食べやすいよう一口サイズにしたとじくりを手打ちそばに添えて出している。当初はそば粉で作っていたが、くすんだ色を嫌がる客が多かったため、「うちでは小麦粉でとじているよ」という会員の一言で小麦粉に代えた。平成22年には舘山寺温泉観光協会主催「新郷土食コンテスト」の温故知新の部で、最優秀賞を受賞している。

同会は先日、佐久間町の城西小学校で小学校3・4年生にとじくり作りを指導。「子どもたちにも受け継いでほしい」と願っている。

ポケットに入れておやつに

野田やまびこ会の皆さん
山田陽子さん・鎌倉亀代さん・亀久保保子さん
(左から)
副会長の山田陽子さん
会長の鎌倉亀代さん
前会長の亀久保保子さん

とじくりは花祭り以外にも、新茶の時季に焙炉(ほいろ)でお茶を手もみするとき食べたよ。焙炉の縁に置いておいて、忙しい作業の合間にぱくりと食べる。今ほど食べ物が豊かじゃなかったから、腹持ちするし、おいしかったねぇ。昔は甘味が貴重で少ししか入れなかった。だから、もっとぼそぼそしていて、おやつ用にポケットに入れても平気だったよ。

今は、ここ(北条峠)で手に入るから、花祭りにとじくりをお供えはしても、自宅で作る人が少なくなっちゃって。でも、県外にお嫁に行った娘が今も作っているなんて聞くと、うれしいよね。

作り方〈一口サイズ約30個分〉

  1. 大豆、米各1合をそれぞれ炒る。大豆は香ばしくなるまで、米は透き通るまで。
  2. 炒った大豆を鍋に入れ、600ccの水で柔らかくなるまで煮る。
  3. 米を加えて煮る。水分が少なくなったら足しながら煮る。
  4. 米がふっくらしたら、砂糖(ざらめ80g、三温糖80g)と塩少々を入れて混ぜる。
  5. 砂糖が溶けたらそば粉50gを加え混ぜ、粘りが出たら火を止めて丸める。

※水分と粉の量は豆などの状態により異なる