グルメ

郷土の味(連載:第6回)

しそ巻

(2016年5月12日号掲載)

しそで包んだ甘い味噌

大葉の緑と軽やかな食感で人気の青じそ巻

しその葉で野菜漬けを巻いたもの、果物を巻いたものなど日本各地にしそ巻は存在するが、『塩漬けのしその葉で、甘く味付けした味噌を包むしそ巻』は遠州地区が元祖といわれているのをご存じだろうか。

時は江戸後期、東海道を行き交う旅人がこの地で甘じょっぱいしそ巻を食べたところ、大変おいしかったと評判になり、各地に伝わったという説が有力だ。浜松では幕末創業の六軒京本舗が現在の蒲地区に構えた茶屋でしそ巻を出したのが始まりといわれている。また、遠州見付(現・磐田市)では明治時代の初めに今はなき松田屋本店がしそ巻を始めたと記されている。

天竜川を挟んだ両地域で赤じそ巻が作られたのは、温暖な荒野に赤じそが豊富に自生していたことによる。また、昔はどの家でも味噌を手作りしていた。見付地区には女性たちが余った味噌をしその葉にくるんで出していたという説もあり、旅人向けの売り物だったしそ巻は、もしかすると庶民の食卓から始まったのかもしれない。

古くから愛されてきた野趣あふれる赤じそ巻

赤じそが採れるのは初夏から夏にかけての短い季節。葉を塩漬けにしたのは厚い葉を食べやすくすることと、採取時期以外にも使えるように保存性を高めるためである。味噌を甘く仕立て、塩漬けのしそ葉で包んで炭火で焼く。それが昔ながらの製法だ。

明治時代、鉄道の普及をきっかけにしそ巻の名は全国に広がり、ファンも増えた。現在は赤じそではなく、大葉で包んだ青じそ巻がシェアの9割を超える。これは昭和50年代に隣接する豊橋で青じそが大葉と名を変えて産地化され、一年中潤沢に手に入るようになったことがきっかけだ。油で揚げるため大葉の緑は色鮮やかに残り、軽い食感が客に喜ばれて主流となった。揚げる際は「一瞬でもよそ見をすると焦げるでね。真剣勝負だよ」と六軒京本舗の五代目・鈴木重彦社長。

健康志向の今、塩分や糖分を控える店もある。歴史を守りつつ進化を続けているのだ。

赤じそ巻の思い出

山下昭一税理士事務所所長
山下 昭一さん(68)

袋井市北部の農家で育ちましたが、田舎だったので行商が魚などを売りに来ていました。しそ巻も行商から買ったようですが、当時は高価なものだったので、食べられるのは年に数回。たまに訪れるちょっとした贅沢でした。甘いお味噌としょっぱい赤じそがマッチした独特の風味で、子供心にもおいしいなぁと思いましたよ。お弁当に入れてもらったときはうれしくてね。

今は青じそ巻やピーナッツ巻などいろいろありますが、どれが好きかと聞かれたら、やっぱり子供の頃になじんだ赤じそ巻が好きですね。県内でも中部や東部地区の方に贈ると珍しくておいしいと喜ばれますよ。

作り方 ~青じそ巻~

  1. 味噌に砂糖を混ぜ、好みの味にする。
  2. 大葉で味噌を包む。細長く丸めて串にさすと、揚げたときに広がらない。
  3. 180℃の油で30~40秒程度揚げる。

〈取材協力〉六軒京本舗、松田屋、浜松市立中央図書館、磐田市立中央図書館