グルメ

郷土の味(連載:第7回)

さくら棒

(2016年6月2日号掲載)

ほんの〜り甘くて懐かしい、ピンク色の長〜い麩菓子。

遠州っ子が「麩菓子」という言葉を聞く。すると、頭の中は、たちまち「さくら棒」のことでいっぱいになってしまう。パリパリの皮や、舌の上でジュッと溶ける食感を思い起こす人もいる。幼かった頃に見た、駄菓子屋や夜店の風景を思い出す人もいる。

城下町の面影を残す遠州横須賀。古い町並みの一角を曲がると、ひらがなで一文字、「ふ」と描かれた看板を掲げる町工場がある。創業80余年の栗山製麩所。二代目の主人・栗山清さんはこの工場で、週に3日、1日に600本の「さくら棒」を作り出す。

「近所の子供たちがよく買いに来るね。県外からのお客さんも多いよ。5袋や10袋は当たり前、中には一度に20袋も買う人もいる」

麩菓子というと、全国的には細く、短い茶色の駄菓子が普通。ピンク色をした巨大な「さくら棒」は、静岡県と愛知県の一部でしか販売されていない。かつては多くの製造元があったが、現在は数軒を残すのみとなった。栗山製麩所は30年以上前から、さくら棒を作り続けている。

工場には長さ約85cmのさくら棒が山積みに!

さくら棒の主な原料は、小麦などに含まれるグルテンだ。これに小麦粉と水を加え、練り込んだものを15㎝ほどの棒状に伸ばす。見た目はソーセージに似ている。40分ほど水に漬けた後、伸ばして専用の窯で蒸し上げる。

「だいたい、150℃で25分ぐらいかな」。作業中は3台の窯を同時に稼働させる。タイマーは一切使わない。頼るのは体にしみ込んだ感覚だけ。窯を開けると、先ほどの"ソーセージ"が、つややかに膨らんだ麩菓子となって姿を現した。焼き上げたら1日かけて自然乾燥。砂糖を塗るのも、ハケを使った手作業だ。

麩菓子の肝は食感、というのが栗山さんの持論。調理用の麩とは違い、麩菓子はそのまま食べるからごまかしが効かない。きめ細やかな舌触りは、グルテンと小麦粉の配分量で決まるという。

生地を窯で蒸す栗山さん。作業は朝5時から夕方まで続く

「小麦粉を多く使えば、原料費が安い分、利益は多く出る。でも、それだと生地がうまく膨らまなくて、味が落ちてしまうんだ。作る以上はちゃんとしたものを作りたい」

工場の脇に飾られているのは、横須賀で毎年春に開かれる三熊野神社大祭の写真。地元の人々に長年愛されてきた味を、今も守り続けている。

〈取材協力〉栗山製麩所(掛川市横須賀926)