グルメ

郷土の味(連載:第8回)

ガワ

(2016年7月7日号掲載)

港町の漁師が作る豪快かつ爽やかな味

夏の御前崎といえば、海水浴にキャンプ、花火と楽しみがいっぱい。だが、一つ忘れてはならない風物詩がある。それが「ガワ」だ。

「ガワ」は新鮮な魚をたたき、味噌や薬味とともに氷水に混ぜた冷たい汁のこと。地元の漁師たちが船の上で食べ始めたのが始まりで、今は一般家庭や料理店でも作られるようになった。

「釣った魚をさばいて漁の合間に食うんだ。ガワを鍋いっぱいに作って、みんなに分けるのが若い衆の仕事だったな」

御前崎の寿司屋「三平寿司」で提供しているガワ。タマネギ、梅干し、ネギ、大葉、ショウガ、キュウリを刻み、魚のたたきとともに冷たい味噌汁に入れた郷土食だ。魚はカツオやアジ、イサキなど日によって変わる。庶民的な味が好評で、注文する客も多い。
御前崎市御前崎91-15 0548-63-3019

そう話すのは元漁師の曽根紀久雄さん(72歳)。漁師仲間との飲み会におじゃまし、ガワの作り方を見せてもらった。

ガワを囲んで一杯やる海の男たち

新鮮な魚の身を包丁で細かくたたき、味噌を加えてさらにたたく。そこに、タマネギやショウガ、ネギ、オオバなど、刻んだ薬味を入れて再びたたく。たたけばたたくほど、うまくなるというのが漁師の理屈だ。

「本場のガワは身だけじゃなくて目ン玉や脳みそ、骨も全部入れてブッたたくんだよ。血合いも入れなきゃ、うまくないんだ」

一通りたたいたものを鍋に入れ、氷水と混ぜれば完成。混ぜる時に、氷同士がぶつかって「ガワガワ」と音がするのが名前の由来といわれている。一口すすると、汁の冷たさと薬味の香りが、のどを爽やかに通り抜けていく。

「とにかくたたきまくるのがコツ」と話す曽根さん
「とにかくたたきまくるのがコツ」と話す曽根さん

「昔の漁師は海へ出る時、おひついっぱいのご飯と味噌だけは必ず持って行った」と曽根さん。漂流した時に備え、ご飯は食べ切らずに少し残しておくのが漁師の作法だ。大漁の時は、釣れた魚を7切れずつ近所に配る習慣もあった。もらった人はお返しに、当時貴重だったマッチ数本を渡したという。

「今でも大勢が集まる時になんかには、ガワを作ってふるまうよ。使う魚は何でもいいんだけど、やっぱり一番うまいのはカツオだな」と豪語する曽根さん。すると、漁師仲間から「いや、アジもうめえぞ!」と横やりが入る。魚談義に火が付いたなら、もう誰にも止められない。「タチ(ウオ)もうまいって!」「カサゴもいいぞ!」。酒を片手に、気炎を上げる船頭たち。こうして漁師町の夜は更けていくのだった。

〈取材協力〉三平寿司、御前崎わんぱく体験振興会