グルメ

郷土の味(連載:第9回)

子メロン

(2016年8月11日号掲載)

フルーツの王子様?メロン農家の日常の味

交配から1週間ほどで摘み取られる子メロン。
大きさは5〜8cmぐらい。摘果の時期によってまちまちだ

その食感は、キュウリに似ていた。味は、ほんのり甘さを感じる。

段ボール箱にどっさり入った子メロンの山。一つ取り出し、包丁でスライスしたものを食べさせてもらった。ポリポリと、心地よい音が口の中で響く。マスクメロンが非日常のフルーツだとすれば、子メロンは農家の生活になじんだ日常の味だ。

「キュウリより青臭さがない分、子どもたちが喜んで食べるの。普通、子メロンというと漬物が有名だけど、メロン農家は生で食べることの方が多いかな」

そう話すのは、磐田市のメロン農家・鈴木寿子さん。薄切りにした子メロンに、かつお節としょうゆをかけるのが鈴木家の食べ方だ。キュウリ感覚でポテトサラダにも入れる。

温室メロンの生産量で日本一を誇る遠州地域。日照時間が長く、冬場も暖かいため、戦前から良質なメロンの生産が盛んに行われてきた。地元で作られるクラウンメロンやアローマメロンは首都圏に出荷され、高級ブランドとして全国的に知られている。

子メロンを輪切りにする鈴木さん。メロン栽培に従事する家庭ならではの光景だ

そんなメロンが「フルーツの王様」なら、子メロンはさながら「王子様」ともいえる存在だ。

メロンは本来、1本の木にたくさんの実をつける。だが、生産者は1本の木から1つの果実しか収穫しない。栄養分を1つの果実に集中させることで、甘くて芳じゅんな香りを持つメロンを作り上げるためだ。

3つの実を残して、ある程度成長したら最も見た目がきれいな1つを残す。残りの2つは、未成熟のまま摘果されるわけだ。これが子メロンの正体。子メロンは、より美しいメロンを作ろうとする農家の姿勢から生まれた副産物なのだ。

「温室メロンは1年で4回収穫するから、子メロンも次から次へとできるの。とてもじゃないけど、家族だけじゃ食べきれないぐらいにね」

成長過程のメロンは傷つきやすいため、子メロン自体はあまり市場に出回らない。もっぱらメロン農家が近所の人々に配り、地域の食文化として根付いてきた。メロン生産者の減少が問題視されつつある昨今。全国に誇る高級マスクメロンとともに、守っていきたい郷土の味の一つだ。

生の子メロンをしょうゆとかつお節で食べる
マヨネーズにもよく合う
ポテトサラダにしても美味

取材協力/静岡県温室農業協同組合 磐田支所