グルメ

連載:第10回

梅衣(うめごろも)

(2016年10月6日号掲載)

森町で愛される香り高い紫蘇の和菓子

発案者から伝授された味を守り続ける栄正堂の梅衣

「おかあさん、元気?」

店を訪れる常連さんは、店頭に立つ足立和子さんにいつも笑顔で声をかけてくれる。

森町で大正6年から続く和菓子屋・栄正堂。今年77歳になる店主の和子さんは、3代目として老舗の味を守り続けている。

多くのお客さんが買っていくのは、看板商品の「梅衣」。こしあんを牛皮餅で包み、紫蘇の葉を巻いた森町の和菓子だ。明治時代、地元にあった菓子舗・栄樹園の「むめ」という女性が考案し、当初は紫蘇巻と呼ばれていた。明治32年、小松宮家が森町を訪れた際、賞味したことを機に梅衣と命名された。

一枚一枚、丁寧に巻かれた紫蘇の葉は、砂糖で煮ているため独特のつやがある。一口食べると紫蘇の香りが広がり、酸味と塩味があんの甘さとほどよく溶け合う。

店内に掲げられている創業当時のチラシ。店名の前に「梅衣本舗」と記されている

この味をむめさんから引き継いだのが、栄正堂の初代店主・足立甚平さんだった。秘伝の製法を授かった甚平さんは、後に独立して栄正堂を開業。梅衣は地元の銘菓として広まり、現在は町内にある多くの和菓子店で販売されている。

「地元の人はお茶菓子にしたり、お土産に使ったりしてくださいます。遠方の方や、かつて森町に住んでいた方がわざわざ足を運んでくれることもあり、ありがたく思っていますよ」

和子さんが栄正堂に嫁いだのは昭和34年。二代目である夫の達明さんと二人三脚で店を切り盛りしてきた。梅衣をはじめ、さまざまな和菓子の作り方を、夫の仕事を手伝いながら覚えていった。

材料を仕込む栄正堂店主の足立和子さん。朝早くから元気に働き続けている

4年前、達明さんが突然病に倒れ、帰らぬ人となった。それからも和子さんは早朝から材料を仕込み、和菓子を作り続けている。

「先代から続けてきたことをしているだけですよ。責任というよりも、使命みたいなもの。今は続けられることに感謝しています」

現在は娘の紀子さんと英子さんが従業員とともに店を手伝い、母子で梅衣の味を今に伝えている。店は来年で創業100年。お客さんから「味が変わらなくておいしい」と言ってもらえるのが何よりもうれしいという。

取材協力/栄正堂