グルメ

郷土の味(連載:第11回)

あおねり

(2016年12月1日号掲載)

春野の山を思わせる若草色のぷるぷるまんじゅう

春野の和菓子店で作られている「あおねり」。現在は本多屋、新月堂、月花園の3店舗で販売されている

浜松市天竜区春野町。かつて林業で栄えたこの町に、100年近く前から伝わる銘菓がある。青々とした若草色が鮮やかな「あおねり」だ。

本多屋菓子舗の三代目・伸治さん(左)と四代目・孝典さん。親子で老舗の味を守り続けている

プルッとした食感の皮で白あんを包んだ和菓子。現在、春野にある3つの和菓子店で作られている。天竜区のイベントなどで販売されることはあるものの、普段は店でしか買うことができない郷土の味だ。

「地元の人がお土産にするほか、市外から買いに来る人も多いですよ。早い時は、午前中で売り切れてしまうこともあります」

そう話すのは、春野町気田で本多屋菓子舗を営む西岡孝典さん。同店は明治42年に創業。四代目の孝典さんは父・伸治さんと共に、107年の歴史を持つ老舗を切り盛りしている。

あおねりが誕生したのは大正時代。本多屋の初代・角太郎さんが、春野の山の緑をヒントに考案した。大の山好きだった初代は、日頃から弟子たちを連れて山登りに出かけていたという。その後、弟子たちが独立し、あおねりを作る店が春野に増えていった。

「今の時代に合わせて甘さを控えめにするなど、味は少しずつ変えています。ですが、もちもちとした食感は変わらず守り続けています」

主な原料は小麦粉と砂糖。孝典さんはこれを理想の固さになるまで、棒を使って練り続ける。指にタコができるほどの大仕事だが、独自の食感を守るためには欠かせない作業だ。孝典さんが店を継いでからは、季節ごとの素材を使った「四季のあおねり」も作り始めた。

「今、この店があるのは初代のおかげ。ここ10年ぐらいで、あおねりを買いにくる人がとても多くなりました。地元の銘菓が見直されていることを実感しています」

地元に住む高齢者に、あおねりについての思い出を聞きとり、ビデオに記録する活動を行っている孝典さん。「最初はあおねりの話をしてくれるんだけど、いつの間にか子どもの頃の思い出話になってしまって」と笑う。生み出されてから約1世紀。あおねりは今も、春野の人々の記憶と共に生き続けている。

お店の冷蔵ケースに並ぶあおねり。冷蔵庫がなかった時代は、涼しい季節しか作られない季節限定のお菓子だった
昔使っていたお菓子を入れる木箱。店から約10km離れた勝坂地区まで、リアカーを引いて売りに行っていたという

取材協力/本多屋菓子舗