グルメ

郷土の味(連載:第12回)

浜名納豆

(2017年1月12日号掲載)

大福寺に代々伝わる、徳川家康も愛した味。

お堂の境内に敷き詰められた豆、豆、豆......。浜松市北区三ヶ日町にある大福寺で、冬になると見られる光景だ。茶色く発酵した大豆を、天日干しして水分を飛ばす。乾燥すれば、郷土の名物・浜名納豆の出来上がりだ。

から皮の猫にあらねば三味線の糸をも引かぬ浜名納豆
境内で天日干しされる浜名納豆。昔は修行僧の栄養源として重宝された

江戸時代の文人・蜀山人が詠んだように、浜納豆は糸を引かない納豆だ。元々は「唐納豆」と呼ばれ、修行僧の食事として用いられてきた。徳川家康の大の好物としても知られ、献上の時期が遅れた時、「浜名の納豆はまだ来ぬのか」と待ちわびたことから「浜名納豆」の名が付いたという。

「お寺の宝物館には、浜名納豆を献上した御朱印が残っています。好きな人にはたまらない味で、お酒のアテやご飯のおかずに使われていますね」

そう話すのは、大福寺副住職の堀口弘憲さん。寺では毎年6月になると仕込みを始める。最初に取り掛かるのは、はだか麦を炒る作業だ。

「はだか麦の粉は納豆菌のエサになります。これをゆでた大豆にまぶして、発酵させたのが浜名納豆です」

梅雨が明けると母・るり子さんが大豆をゆで始める。食感を良くするため、薄皮は取らず、残したままゆで上げるのが特徴だ。皮が取れそうで取れないタイミングは、るり子さんにしか分からないという。

はだか麦をまぶした大豆は、室(むろ)と呼ばれる部屋の中に入れる。室には納豆菌が生息していて、この菌が大豆を発酵させるのだ。3日ほど室に入れておくと、発酵の作用でかなりの熱を持つという。

「発酵した大豆は固まりになっているので、手でほぐしながら冷まします。1日に3時間、これを1週間ぐらい行うので、かなり手間かかりますね」

発酵後は直径1.5mもある大樽に入れて、4カ月間、塩水に漬け込む。その後、天日干しして乾燥させれば完成だ。

「家族や近所の方だけで作っているので、たくさんの量はできません。昔ながらのやり方で、昔ながらの味を引き出すことに重点を置いて作っています」

大福寺の浜名納豆には、山椒の中皮が薬味として使われている。これも昔から代々伝わる、寺ならでは味である。

寺に伝わる味を守り続ける大福寺副住職の堀口弘憲さん
大豆の薄皮を残してゆで上げるのが腕の見せどころ
大福寺

875(貞観17)年、教待上人が富幕山に幡教寺を開創し、1207(承元元)年に現在地へ移された際に大福寺と改称された。境内には宝物館や、室町時代の観賞回遊式庭園がある

取材協力/高野山真言宗 大福寺