暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.15

初夏の田んぼに響く声タマシギ -珠鷸-

(2018年6月14日号掲載)

漫画のようにユーモラスな顔

「コウ、コウ、コウ、コウ...」赤く染まった西の空、その彩度がだんだん落ちていく頃、だだっぴろい田んぼの一角から聴こえてくる。どこか木管楽器を思わせる、素朴で温かみのある音色。その声の主はタマシギだ。

タマシギは田んぼや休耕田など、湿地で見られる鳥だ。長めのクチバシをもち、ずんぐりした体型の小柄なシギだ。その顔は一目見れば、誰もが一瞬で心ほどけるようなユーモラスさがある。ただでさえ黒く縁取られて大きく見える目が、さらにハッキリとした白色で勾玉(まがたま)状に縁取られている。目をつぶると、白い勾玉の中に、目の周りの黒い部分が山なりの線となり、漫画のようなニコニコ顔になる。

メスとオスの役割が逆転

タマシギの一番の特徴は、メスとオスの役割が逆転していること。多くの鳥は、オスが派手な色柄の羽毛を持ち、縄張りの主張やメスにアピールするためにさえずる。ところがタマシギは、メスが派手な色柄で、オスは地味なのだ。「コウ、コウ...」と鳴いていたのは、オスを求めて鳴くメスだったのだ。

それだけではない。メスは産卵を終えるとほどなくして、こつぜんと姿を消す。新たなオスを探しに去ってしまうのだ。だから子育てを担当するのはオス。オスもまんざらでもないようで満足げに巣の上に座って卵を温める。雛がかえると、その世話をするのもオスなのだ。

だからといってメスが冷たいわけではない。つがいでいる間のオスとメスは、それはそれは仲睦まじい。ぴったり二羽が寄り添って行動する。朝と夕方には、そろって田んぼに繰り出し、泥にクチバシを突っ込み、左右に振って餌を探す。羽繕いにも余念がない。そして時折、羽を頭上に高くさしあげ、震わせる。求愛行動と呼ばれるものだ。これを繰り返し、交尾にいたる。天敵から身を守るため、低い姿勢で移動することが多いのだが、メスの半歩後をこうべを垂れて歩くオスの姿はいじらしくさえ見える。

草地など天敵から丸見えのところに産卵するため、巣が襲われやすかったり、湿地ゆえに巣が水没するリスクがあったりするようだ。だからタマシギは、子育ての一切をオスが担い、メスはできるだけ多くの子孫を残す方法を選んだのかもしれない。

遠州地域では、浜北区、北区、南区、磐田市などで見られる。田を耕す前に巣作りをしてしまった場合、農家の方が巣を残しておいてくれていることもある。人々と共に暮らすタマシギ。今宵も田んぼでは、あの優しい声が聞こえていることだろう。

取材協力 青木 正男 氏・舩橋 怜二 氏

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希