暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.19

荒れ野のハンター ハンミョウ-斑猫-

(2018年10月11日号掲載)

鋭い大顎を持つ美しい甲虫

地面に伏せるようにスッと身を沈め、大きな黒い目玉でジッと獲物を見つめる。獲物が近づいた瞬間、素早く走り出し、鋭い大顎でガッチリとくわえる。息つく間もなく、羽交い締めにされた獲物は身動きが取れず、たちまち絶命してしまう。ムッシャムッシャ!と二本の白く大きな牙を深く交差させ、獲物をゆっくりとかみ砕く。まるでライオンがシマウマを捕えるかのような迫力のシーンを見せてくれるのは、ハンミョウという名の甲虫だ。低山の林道など、草もまばらな、土がむき出しのところでよく見られる。その地表を忙しそうに動き回っているのはたくさんのアリ。ハンミョウはこれらを狙っている。

体長は2センチほど。スリムなボディにスラリとした長い脚。その背中に施された艶やかな赤や青の金属光沢模様は、陽の光を浴び、眩いばかりの「美」を放つ。それは目くらましの効果も併せ持つ。ハンミョウの動きは機敏だ。スススっと高速で動いたかと思えば、突然ピタリと静止する。微動だにせずにいると、背中の模様は地面に溶け込み、その姿を見失ってしまう。

生まれながらのハンター

幼虫もまた肉食だ。縦穴を堀り、その入り口に顔と胸をフタのようにくっつけて獲物を待つ。アリなどが通るやいなや、穴から上半身をのけぞらせ、獲物をキャッチ、穴へと引きずり込む。幼虫にも立派な大顎があるのだ。特筆すべきはおしりにある二対のフック。これを穴の壁にひっかけ、体を固定する。狩るのに適したつくりとなっているのだ。

成虫になるには2年程かかる。夏に孵化した幼虫はそのまま冬を越し、翌夏〜秋に蛹から羽化、成虫で二度目の冬を越す。翌春〜夏にようやく交尾・産卵し、その生を終える。だから秋に見られるのは、今年羽化したばかりの新成虫というわけだ。冬に備え、栄養をたくさん蓄える必要があるのだろう。新成虫は日がな一日、荒れ野で狩りをする。夕方になってもなお、目の前を通るアリなどに襲いかかる。

ハンミョウは、別名「道おしえ」「道しるべ」ともいう。林道を歩くと、ふいに足元から飛び出し、数メートル先に着地する。近づくとまた数メートル先へ飛ぶ。まるで道を教えてくれているように見えることからついた名だ。枯葉の舞う季節。秋の山歩きをすれば、冬ごもりを目前に控えたハンミョウに道案内をしてもらえるかもしれない。

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希