暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.21

厳しい冬を静かに過ごすトンボ ホソミオツネントンボ -細身越年蜻蛉-

(2018年12月13日号掲載)

枯れ枝そっくり!

晩秋、草も枯れ、地面がむき出しとなった山あいの田んぼ道。あれほどにぎやかだった生きものの姿もすっかり薄れ、静寂があたりを包みこみはじめる。陽だまりを歩いていると、足元にふれた枯れ草からふわりと弱々しく何かが飛び立った。しかし、すぐ見失ってしまう。ホソミオツネントンボだ。「越年(おつねん)」の名が示す通り、成虫で年を越すトンボだ。細くて茶色い体は、枯れ枝にそっくり。あっという間に風景に溶け込んでしまう。

ほとんどの種類のトンボは、春から夏にかけて羽化し、秋にはその生を終える。ところが、このホソミオツネントンボは、夏に羽化するとそのまま冬をやりすごし、翌春を迎える。成虫で冬越しをするトンボは、国内ではホソミオツネントンボを含め、オツネントンボ、ホソミイトトンボの三種のみ。どの種も体の細いタイプだ。冬の間、越冬場所からは、ほとんど動くこともないという。調査記録では、雪の下でじっとしている姿(頼惟勤氏「トンボのすべて」井上清・谷幸三著)が確認されている。ただし、1〜2月の厳寒期に、越冬中の現場に出くわすことは滅多にない。人知れず、寒い冬を耐え忍んでいるのだろう。

美しいブルーに変わる春

長い冬が終わり、吹き出す新芽が野山をパステルカラーに染める頃、待ちわびたかのように、ホソミオツネントンボの体にも変化が現れる。水色と黒のまだら模様が浮かび上がるのだ。オスもメスも変化するが、オスはより鮮やかなブルーとなり、その模様をくっきりさせる。成熟のサインだ。ただし、気温によっては、また茶色になるなど可逆的に変化するようだ。

春の水辺に繰り出したオスとメスは互いにつながりあい、交尾する。トンボのペアがつくるその形はかわいいハート形だ。そして水辺の植物の茎にしっかりと卵を産み付ける。

あえて厳しい冬を過ごすことを選び、春一番に成熟し、次の世代を残す。そんな独特な生態を持つホソミオツネントンボだが、県内の生息地は、開発などにより減少の一途をたどる。遠州はトンボをはじめ、希少な動植物が豊富な、貴重な地域だ。一度絶えた命は元には戻らない。開発せざるを得ない場合も、湿地や緑地を確保しながらの開発を考えたい。自然資源は無限の可能性を秘めているのだから。

協力 福井 順治 氏

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希