暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.4

夏の河原を舞う静岡県ならではのチョウ クロコムラサキ-黒小紫-

(2017年7月27日号掲載)

天竜川にたくさんいる

日本の国蝶といえばオオムラサキ。それに似た、コムラサキというチョウがいる。名前のとおり、オオムラサキよりも小型のチョウだ。

このコムラサキには通称「クロコムラサキ」と呼ばれる黒色型がある。天竜川はこのタイプがたくさん見られる地域なのだ。

通常のコムラサキは、北海道から九州まで各地の河川敷など、幼虫時の餌となるヤナギがあれば、どこでも普通に見られる。だが、クロコムラサキは本州中部付近、九州南部とその分布は限定的。なかでも静岡県は、天竜川のほか大井川・安倍川など、大河川の中流域で出現率が高いといわれている。チョウマニアの間では有名で、他県の愛好家がわざわざ足を運ぶほどだ。

幻想的な紫の金属光沢

人気の秘密は翅(はね)の色だ。通常のコムラサキは、オレンジ色と紫色のコントラストが、明るく元気な印象。対してクロコムラサキは黒い地色に白い帯・そして紫色の金属光沢。モノトーンとの組み合わせゆえに、紫色がより深みを増して見え、独特のシックな雰囲気を醸し出す。その配色は、遠州地域ではほとんど見ることのできないオオムラサキにますます似る。

樹上を飛んでいたクロコムラサキが、ヤナギの中へスッと入っていく。その飛び方は、キレのいいターンを短いスパンで繰り返すジグザク型。スピードがあまりにも速くて、目で追うのは難しい。

混み入った枝の間を器用にすり抜け、彼らが目指すのは樹液だ。チョウは花の蜜を吸うイメージが強いが、樹液を吸うチョウも意外に多い。クワガタなどの甲虫に混じって群がり、時折、仲間同士で樹液をめぐってバトルをする。

蜜を吸うクロコムラサキは、翅をゆっくり開閉させる。その動きに合わせ、暗色の翅から時折キラッキラッと浮かび上がる幻想的な紫の金属光沢が、見る者の心を惹きつける。

クロコムラサキの力強く羽ばたく様子を見ていると、遠方まで飛んで行けそうな気がする。なのに、黒色型の遺伝子を持ったものは特定の地域でしか見られない。その理由は解明されていないが、生息地に定着する傾向が強い種なのかもと考える人もいる。この夏、虫観察をするならクロコムラサキにもぜひご注目を!

文・イラスト 環境学習指導員 瀬下 亜希