暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.3

遠州灘の初夏を告げるコアジサシ-小鯵刺-

(2017年7月6日号掲載)

浜辺の影にヒナ発見!

潮風を体に受け、浜辺に降り立つと、上空から「キュルルッ!キュルルッ!」とかわいい声が聞こえてくる。見上げると、青空を切るように、いくつもの白く細長い翼が舞っている。広げると50㎝ほどになる長い翼が特徴の夏の渡り鳥、コアジサシだ。 いったいどれほどの数がいるのか、遠くで舞うものは、空に溶け込んでしまってよく見えない。しばらく見ていると、上空で停止したのち、砂浜へ降りるものがいる。そのくちばしに小魚をくわえているのがわかる。降りたコアジサシを砂浜で待っていたのはヒナだ。浜辺のわずかなくぼ地、あるいは流木やちょっとした草かげに身をひそめ、親鳥の帰りをひたすら待つ。親鳥の姿を上空に発見するやいなや、口を大きく開けて騒ぎはじめる。

砂や砂利のところに巣をつくるコアジサシは、人が通るような所にも営巣する。ヒナがその身を守る手段は、砂地と同化したかのような体の模様だ。じっとしていると、すぐそばにいても気づかぬほどそっくりなのだ。

漁師さんとの秘密の関係

舞阪の漁師さんは、コアジサシを「ハマチドリ」とか「チューナー」と呼ぶ。普通は浜で見られる小さな鳥、チドリのことを浜千鳥というが、漁師さんはコアジサシを指してそう呼ぶ。「チューナー」の由来は定かでないがその響きが魅力的。漁師さんとコアジサシの関係の秘密が隠されているようで心惹かれる。

コアジサシは、空中で羽ばたきながら停止し、狙いを定めて水に垂直に突っ込んで獲物を獲る。漁師さんによると、小さなシラスを狙うコアジサシは水面を斜めにかすめ、水をすくうようにして獲るという。魚群探知機のない頃は、海上のコアジサシの群れを見て、シラスやイワシのいる場所の見当をつけて漁をすることもあったらしい。

かつては初夏を迎えると、浜辺一帯が白く見えるほど、たくさんのコアジサシで埋め尽くされたと聞く。浜辺は上流から流れ着いた流木がたくさんあり、海辺の人々はまきにするため、毎日浜を歩いて拾い集めたそうだ。きっとコアジサシの群れを見ながら歩いたことだろう。

ダムができて砂の供給が減り、真水の流入も変化し、遠州灘の風景はずいぶん変わった。今では、ヒナが身をひそめるのがゴミのそばであることも多い。コアジサシが舞う遠州灘の風景を、どうにか美しい形で子どもたちに引き継ぎたいと願う。

文・イラスト 環境学習指導員 瀬下 亜希