暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.5

秋を告げる白い玉のような花シラタマホシクサ-白玉星草-

(2017年8月31日号掲載)

見られるのは東海4県だけ

「夜空にちりばめた満天の星のよう」。花の最盛期、その美しさをこう称される湿地の植物が、シラタマホシクサだ。地面からまっすぐ伸びた細長い花茎のてっぺんに、チョコンと乗った小さな白い玉のような形の花。無数の白い花が秋風にやさしく吹かれ、たたずむ。

シラタマホシクサは、「東海丘陵要素植物」と呼ばれ、愛知・岐阜・三重・静岡の4県でしか見られない、この地域限定の日本固有種だ。500万年~200万年前にあったとされる東海湖の周辺に生育していたと考えられている。その湖の東端に位置するのが遠州地域だ。

シラタマホシクサは、山の浸み出し水がつくる湧水湿地に生育する。湧水湿地とは浸み出し水で常に浸され、枯れた草などの堆積が少ない、栄養の乏しい湿地のこと。シラタマホシクサは、栄養分の豊かな土地では他の植物に負けてしまうため、栄養が乏しい所でも生き残る術を身につけた種といえる。

湿地に生える貴重な植物

遠州地域の丘陵沿いや河岸段丘沿いには湧水が多数あり、その周辺には古墳や窯の遺跡が多く見つかっている。水のあるところには人の営みがあり、それと同時にシラタマホシクサなど、湿地の植物の宝庫でもあったのだろう。かつての遠州地域の人々にとって、きっとシラタマホシクサは秋の訪れを告げる身近な植物であったに違いない。

浜松市北区に住む70代のおじいさんは子供の頃、田んぼのあぜに生えるシラタマホシクサのことを覚えていた。その細長い姿を指し「ホッソ、ホッソ」と呼んで親しんでいたそうだ。あぜの緑の草の中に、ポツポツと混じる白くてかわいい花を見つけると、なんだか嬉しくなって、摘んで遊んだのだそうだ。女の子は腕輪などを作ったという。

その場所は、今では放棄水田となり、背丈を超えるほど草木が生い茂る。シラタマホシクサの姿は見られなくなってしまった。ただし、その田んぼの一番奥では、現在も山の浸み出し水があり、じゅくじゅくとした湿地環境が残っていた。きっと土の中では、シラタマホシクサの種が発芽の条件が揃うのを待っているのではないかと小さな期待をしてしまう。

現在は、静岡県立森林公園(浜北区)、銅鐸公園(北区)でシラタマホシクサの保全をしており、10月中旬頃までは〝満天の星空〟を楽しむことができる。

文・イラスト 環境学習指導員 瀬下 亜希