暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.7

旅をする蝶 アサギマダラ-浅葱斑-

(2017年10月26日号掲載)

浅葱(あさぎ)色の美しい翅(はね)

アサギマダラという蝶がいる。海を渡る蝶として知られているが、その実態は謎に包まれている。浅葱は緑と青が混ざった色のこと。それが翅の白い部分に、わずかに透けて見えることからその名が付いた。

木漏れ陽が射す静かな林間を、数頭のアサギマダラがふわりふわりと乱舞する。まるで妖精が戯れるかのように。そうかと思えば翅をV字に固定して、スーッと滑空する。変幻自在に飛ぶ姿も見る者を惹きつける。

渡りの謎を解明しようと、全国各地でマーキング調査が行われている。アサギマダラの翅に日付や場所を書いて野に放し、別の場所で再び捕獲する。この調査からアサギマダラが海を越え、南の島まで飛ぶことがわかった。時には2000キロも移動するというから驚きだ。

10月の中・下旬から11月初旬にかけて、遠州地域の低山にもアサギマダラが姿を現す。春に北上し、夏を東北や中部の涼しい高山で過ごして、世代交代したアサギマダラが、秋になり南下してきたものと思われる。ただしこの後、すべてのアサギマダラが海を越え、南を目指すかというと、どうやらそうでもないらしい。

静岡で越冬する場合も

そのわけは「キジョラン」にある。キジョランは関東以西に分布するツル性の植物で、アサギマダラが産卵する植物のうちのひとつだ。温暖な静岡県にはキジョランが育ち、幼虫はこの葉を食べて冬を過ごす。わざわざリスクの高い海越えをしなくても、静岡でゆっくり冬を越すという選択肢があるようだ。

とはいえ、山から里へと長距離を飛ぶことに違いはない。アサギマダラの体は、長距離飛行に適したつくりになっている。翅脈(しみゃく)という翅の骨格をなす部分がしっかりして、まるで凧の骨みたいだ。鱗粉が少ないのも、空気抵抗を少なくするためではないかと思える。

さらに、長旅の最中、天敵に襲われないよう体に毒を仕込んでいる。幼虫時代に食べるエサや、オスが成虫になると吸蜜するヒヨドリバナなどから、アルカロイドという毒性の物質を得ているのだ。体のマダラ模様も、毒蝶を示すサインというわけだ。

公園などに植えられたフジバカマにもよく吸蜜に訪れる。今期、出会うアサギマダラはいったいどんな旅をしてきたのやら。考えるだけでもワクワクする。

文・イラスト 環境学習指導員 瀬下 亜希