暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.11

木の上に暮らし、夜空を滑空するムササビ -鼯鼠-

(2018年2月22日号掲載)

日没後から動き出す

「グルルルッ...、グルルルッ...」夜の帳がおり、静まり返った神社の森から響く声。「ジジジジジ...」という機械音のような聞きなれない音に思わず振り返る。フワッと何かが頭上をかすめ、見上げると、座布団のようなシルエットが音もなく闇夜を横切った。スッと目指す木に着地するやいなや、その影はスルスルスルッと滑らかに幹を駆け上がる。ムササビだ!

日没後、30分ほどすると活動を始めるムササビは、夜行性の動物だ。大きさは子猫ほど。大きな木の樹洞に巣を構えるリスの仲間である。なるほど大きくてふさふさした尻尾を背中にのっける様はやっぱりリスだ。

彼らの生活圏は木の上だ。主たる食べ物は木の恵み。葉、芽、花、果実、種子など。春にはサクラの花、初夏には若葉、秋には松ぼっくりやどんぐり、冬には冬芽など。四季折々、旬の味覚を堪能する。

妖怪や天狗のモデル?

大きな木が何本も生える森で、彼らは食べ物を求めて移動する。隣接する木と木の重なりあった樹冠づたいに、よどみなく動く。木から木まで距離がある、そんな時、彼らは得意技で移動。そう、滑空するのだ。

ムササビは滑空に適した体に進化を遂げている。大きな皮膜はもちろん、前足の外側にある針状軟骨がポイントだ。ふだんは前足に沿って折りたたまれているこの軟骨が、滑空時には90度に開いて、皮膜をめいっぱい広げる役目を果たすのだ。高い木の上からエイヤッと飛び降りる。その姿は、さながら風呂敷を広げて飛ぶ闇夜の忍者だ。

遠州地域ではムササビを「バンドリ」と呼ぶ人もいる。「晩の鳥」という意味だ。全国的には野衾(のぶすま)という妖怪や多くの天狗伝説があるが、そのモデルは、ムササビともいわれている。松明(たいまつ)しかない時代、闇の中で活動するムササビは、人々の想像力を刺激してきたのだろう。

一夜明け、ムササビがいた木の下を見てみると、葉のついた小枝と、直径5ミリほどの小さな玉が散らばっている。小枝はムササビがかじり取り、葉や芽を食べて捨てたもの。玉は糞だ。

人々がたいそう恐れてきた生きものの正体は、静かな夜間に葉などをせっせと食べる、つぶらな瞳が可愛い動物であった。 巨木が残り、食べ物となる木々が豊かな神社や里山では、今もムササビに出会える所もある。静岡県立森林公園でも見られる。

文・イラスト 環境学習指導員 瀬下 亜希