暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.17

かれんな花を咲かす食虫植物 トウカイコモウセンゴケ -東海小毛氈苔-

(2018年8月9日号掲載)

夏の湿地を彩るピンクの花の正体は...

山のしみ出し水がつくる湿地。朝早い時間から夏の太陽がさんさんと降り注ぐ。水が薄く流れる地表が光を受け、キラキラと輝く。丈の低い草がまばらに生える、淡い黄緑色の風景。その中で、とても小さなピンク色の花がかれんにその存在をアピールしている。トウカイコモウセンゴケという名の花だ。

天まで届けといわんばかりに長く伸びた花茎(かけい)の先にちょこんと花をつけ、5枚の花びらを精一杯広げている。不意に空に雲がたちこめ、あたりが急に暗くなる。すると今まで開いていた花が、あっという間に閉じていく。また、晴れていても午後になれば、花はもう店じまいだ。

そんなか弱い印象の花だが、地面に張り付くように生える葉は、それとは対照的にどう猛な能力を持つ。実はこの植物は、食虫植物なのだ。葉の先の丸い部分には赤い腺毛が生え、そこに朝露のような滴がついている。英名「太陽の露(sundew)」の由来だ。この滴は粘性で、虫がこれに触れたが最後、粘り気に足をとられ、もがけばもがくほど動けなくなる。薄い翅(はね)がひっついてしまったなら致命的だ。

そうこうしているうちに、腺毛が次第に内側へ曲がり始め、気付けば、葉自体も曲がって獲物を包みこんでいく。獲物の体にぴたりと当てがわれた腺毛の先からは、消化液が分泌され、体を溶かす。獲物はたいてい2ミリに満たないような羽虫などだが、時には葉先の何倍もの大きさの虫が捕まっているのを目にする事もある。

失われた生育環境

遠州には他に、モウセンゴケ、コモウセンゴケがあるが、トウカイコモウセンゴケは、その2種が自然に交配したものとも言われている。天竜川以西の静岡、愛知、岐阜、三重を中心に見られ、遠州は分布の東端といえる。

モウセンゴケは、日当たりが良く、地面が見えているような湿地に生える。かつての遠州地域では、四ツ池公園や有玉地域、半田地域、都田地域、志都呂地域、三ヶ日地域などに、広く生育していた。砂礫層(されきそう)という水の通りの良い地層と、その下にある水を通しにくい泥層(でいそう)という地質がこれらの環境を作り出していたと考えられる。その名の通り、毛氈(もうせん)を敷き詰めたように、モウセンゴケがかつての遠州の湿地に彩りを添えていたことだろう。

残念ながら開発と共にそんな環境は失われてきた。今、見られるのは浜北区や三ヶ日、湖西市などの一部。貴重な環境を次世代にもぜひ残したいものだ。

取材協力 天野 保幸 氏

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希