暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.18

秋の夜に、悠久の時を刻む声 カンタン -邯鄲-

(2018年9月13日号掲載)

「鳴く虫の女王」

「ルルルルルルル...」日中の暖気が残る川の土手。悠久の時を刻むかのような優しい音色が響き渡る。日が落ち、すっかり闇となる頃には、秋の夜を音で彩る虫たちが活発になる。リーン、リーンと涼やかに鳴くスズムシ。チン、チロリンッ!とキレの良い金属音で元気にリズムを刻むマツムシ。その中で、ひたすら抑揚のない連続音を発し続けているのがカンタンだ。そのどこか雅で魅惑的な音色に魅了されるファンは多い。「鳴く虫の女王」と称され、かつて虫売りがいた時代から親しまれてきた。もっとも鳴くのはオスなのだが。

カンタンは二センチほどの大きさで、草と同化してしまいそうな淡い緑色、茎に隠れてしまうような細身の体をしている。触ると体は柔らかく、か弱い印象だが、アブラムシなどを食べる肉食性の強い雑食昆虫だ。

葉に開いた穴から顔を出して鳴く

鳴いている姿を一目見たいと思い、クズやヨモギの草むらを声をたよりに探してみる。地上1メートルほどの、密生する葉のあたりから、くぐもったような音が聴こえてくる。だがそう簡単には見つからない。葉を丹念に見ていき、ようやく見つけたのは、クズの葉に開いた穴から顔を出し、上半身を乗り出して鳴いているカンタンだ。体に対し直角に立てた半透明の薄い二枚の翅を細かく震わせている。翅にはヤスリ器とコスリ器という器官があり、これをこすり合わせて音を出す。しかしこの小さな体からよくも美しい音が出せるものだと感心し、しばし聴きほれる。よく見ると翅は、ちょうど大きな葉の裏側に沿わせる格好だ。まるで葉そのものを拡声器として用いているようにも見える。音がくぐもって聞こえたのはこのせいだ。葉の表側からと裏側からでは、聞こえる音のクリアーさが違うのだ。

カンタンは、メスがオスの背中に乗って交尾する。オスの翅の付け根にはメスが大好きな液が出る誘惑腺という器官があるのだ。交尾の時、メスはこの液を夢中で舐めるという。カンタンのオスは、秋の夜長に独り鳴きしながらメスが通りがかるのを待つ。

闇が白み始める頃、虫の声はまばらになり、土手の風景は、夢から覚めるように朝を迎える。今宵はカンタンの声を聴きに秋の夜のお散歩などいかが。秋も深まる頃には、日中でも声を聴くことができますよ。

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希