暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.24

サクラの季節の風物詩ニュウナイスズメ -入内雀-

(2019年3月14日号掲載)

ほっぺにほくろの無いスズメ

うららかな春、サクラの開花を心待ちにしていたのは、人間ばかりではないようだ。川の土手を華やかに染め上げたソメイヨシノの桜並木を歩くと、春の青空を埋め尽くす満開の花の隙間から多くの野鳥たちが見え隠れしていることに気づく。彼らのお目当ては、花の蜜。

ヒヨドリ、メジロは頭を花びらの中に突っ込んで、顔中を花粉で真っ黄色にしながら一心不乱に蜜を吸っている。そんななか、摘んだ花をくわえ、せわしなく空に持ち上げるようなしぐさをしている小鳥がいる。もぎりとった花の付け根から蜜を吸っては、ポイッと捨てている。スズメにそっくりだが、よく見ると、スズメのトレードマークともいえる、ほっぺの黒い模様が無い。ニュウナイスズメだ。ニュウナイの「にふ」とは古名で「ほくろ」を意味するという。これが「無い」ため、ついた名との説がある。

双眼鏡でじっくり見ればオスは頭の色が明るくて赤みの強い茶色だ。メスは頭から背中は薄い茶色、目の上に黄みがかった太い横線が走る。なるほど、ほっぺにほくろがないだけで、どこかあか抜けた印象になるものだ。自分の顔ほどの大きさもある、淡い桃色の花をくわえたその姿が、なんともフォトジェニックな小鳥である。耳をすませば、その声もスズメと違い、控えめに「チィー、チィー」と聴こえる。

子育ては山で

ニュウナイスズメは、市街地や人家近くに暮らすスズメと違い、繁殖期は山で暮らす。樹洞やキツツキなどが掘った古巣を使い子育てをするのだ。秋になると、里へ降り、春先まで群れで過ごす。遠州地域では、磐田市や浜松市北区などの田園地帯で見られる。お気に入りの田んぼ周辺で、多いときには、数十羽の群れをなす。農道を通ると、電線にズラッと並んでいたり、冬の田んぼに降り、イネ科の草のタネなどをついばんでいる姿を見かける。スズメの群れのなかにぽつんと一羽だけ混じっていることもある。

暖かくなると、里での冬越し生活も終盤。しめくくりは、サクラの蜜のごちそうというわけだ。おいしい蜜をたっぷり吸って、山へと帰る。

お花見のとき、地面にサクラの花が落ちていたら、見上げてみて。もしかしたら頭上では、ニュウナイスズメがせっせと花の蜜を吸っているかもしれない。

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希