暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.25

早春のひとときにのみ現れるコツバメ -小燕-

(2019年4月4日号掲載)

身近に見られる春の妖精

ポカポカ陽気に誘われて草花や小さな虫たちが一斉に活動をはじめる。野山を歩くことのなんと楽しい季節か。

そんな春のお楽しみのひとつは「スプリングエフェメラル」に出会うこと。「春のはかない命」という意味の言葉で、早春の、ほんの短い期間だけ花をつける植物や、姿を表すチョウを指してそう呼ぶ。カタクリやギフチョウは中でも人気のある種だ。だが、これらが見られる場所は限られる。ところが意外にも、身近なところで出会える「春の妖精」がいる。それが「コツバメ」だ。ツバメと付くがチョウのこと。黒っぽく素早い動きがツバメを連想するため付いた名だ。閉じたときの翅(はね)の長さが15ミリ程度と、小さくて茶色いチョウ。草や葉の上で日なたぼっこするその姿は一見地味だ。しかし、ひとたび陽の光に照らされると、いぶし銀のような渋い金属光沢を放つ。角度によって微妙に色が変化し、それが不思議な世界観を作り出す。落ち葉が折り重なったような柄は完全に風景に溶け込み、敵から身を守ることに役立っている。

アセビを食べて育つ幼虫

山辺を歩いていると、地面から50センチほどの高さを小刻みに上下しながら素早く横切るコツバメ。黒っぽい飛び姿だが、ときおり青い色が幻惑のようにチラチラと垣間みえる。静止時は、両翅をぴったり閉じるため見えないが、広げると翅の上面は、濃淡のある、ハッとするような美しいブルーなのだ。

翅や脚を含め全身を覆う長い毛もこのチョウの特徴のひとつ。まだ寒さが残る春先の気温に対応したつくりなのだろう。

コツバメに出会ったら、周りを見回してみてほしい。側に白くて小さなツボ型の、かわいらしい花を鈴なりにつけた木がないだろうか?アセビという名の木だ。コツバメの幼虫は、この花のつぼみや実、新芽を食べて育つ。メスは花の付け根付近に緑色の卵を産みつける。そこなら孵化した幼虫がすぐさま食事にありつけるというわけだ。

チョウの多くは春から秋にかけて見られるが、春先にしか現れないコツバメは、生涯のほとんどを蛹(さなぎ)で過ごす。幼虫はアセビの開花から結実までの短期間で育ち、初夏前には蛹となる。

静岡県立森林公園など浜北区や北区の山辺にはアセビがある。期間限定の春の妖精を探してみては。

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希