暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.27

遠州地域の田園風景をつくる ケリ-鳧-

(2019年6月6日号掲載)

激しく威嚇しテリトリーを守る

「ケーッ!ケーッ!ケーッ!ケーッ!」早苗のたなびく水田で、爽やかな初夏の青空をかき裂くように響き渡る声。自分よりもずいぶん大きなアオサギを、威嚇の声を張り上げながら追撃するのはケリという鳥だ。鳴き声が「ケリッケリッ」と聞こえるからついた名とも聞く。チドリの仲間で、頭から胸にかけてはグレー、背中は茶色と一見すると地味な鳥。でもいざ飛び立つと、翼と尾羽の白色が、ひときわ鮮やかでスタイリッシュだ。その白は遠目にはブーメラン型にも見え、ケリだとすぐわかる。

ケリの気性の強さは筋金入り。充血を思わせる赤色の目もそれを物語るかのようだ。春から初夏にかけての繁殖期、テリトリーに侵入するものはなんでも追い払う。追い払い方もいろいろだ。カラスなど空からの侵入者や人間に対しては、激しく鳴きながら上空高く舞い上がり、侵入者めがけて急降下。体当たりする直前でひるがえす。自分の餌場でのんきに餌をついばむ小さなシギに対しては、小走りに近寄りしつこく追い回す。

甘い声を出すとき

そんな意地悪キャラのケリも、甘い声を出すときがある。それは求愛だ。「コッ、コッ、コッ、コッ」とねだるような小さな声。威嚇のそれとはまるで違う。オスは気になるメスを遠巻きに見ながら優しく鳴き、交尾のチャンスを自信なさげにうかがう。メスとの距離をだんだん縮めていき、メスが嫌がらなければ素早く近づき、パッとその背中に乗り交尾する。ほんの数秒の出来事だ。面白いのは交尾の直後、二羽とも背筋と首を高く伸ばし、背伸びのようなポーズのまま黙って数秒静止することだ。ときにお互い見つめ合うような格好になるのだが、それがどこかコミカルでもありほほ笑ましい。

ケリはもともと川の氾濫原など湿地に暮らす鳥。湿地環境の代替地として、彼らが選んだのが広い水田だ。ここで産卵し子育てをする。田おこしや田植えのタイミングをうまくやり過ごせたひなたちが親鳥と一緒に暮らす時間は長い。夏が過ぎても群れで過ごす姿を見る。

遠州では磐田市や浜北区、北区などの田園地帯で当たり前のようにケリが見られる。しかし全国的には東海地域など局所的にしか見られない鳥でもある。

浅く水のたゆたう水田に響くケリの声。遠州地域の風景として大切にしたい。

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希