暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.29

南方から海を渡ってやってくるウスバキトンボ -薄羽黄蜻蛉-

(2019年8月1日号掲載)

昔から身近にいるトンボ

東南アジアなど南方から海を渡ってやってくると考えられているトンボがいる。ウスバキトンボだ。聞きなれない名前だと思うかもしれない。でも「精霊蜻蛉(しょうりょうとんぼ)」「盆トンボ」と言われればピンとくる人も多いはず。お盆の頃に群れで空を飛ぶ姿を「先祖の霊がトンボに姿を変えて帰ってきた」とか「霊のお使いとしてやってきた」などと言い、古くから人々に親しまれているトンボのことだ。

遠目にはオレンジ色っぽく見えることから「赤トンボ?」と聞かれることも多い。でも生物学的な分類では、赤とんぼとされるアキアカネなどのアカネ属ではなく、ウスバキトンボ属のトンボだ。

日中はずっと空を飛び続けていることが多いため、その色柄をしっかり見る機会は少ない。しかし、網で捕まえてその体をよく見ると、細いしま模様のある胴体、半透明にも見える胸、黄色の顔面に、茶色と青のツートンカラーの目と、他のトンボとはどこか違うたたずまいを持っていることに気付く。

夕方になると低く飛びはじめ、草むらなどにねぐらをとる。

片道だけの大移動の不思議

4月には九州南部に姿を現し、梅雨の頃には、遠州地域も含め、全国広い範囲でその姿を見掛けるようになる。ウスバキトンボの卵は数日〜1週間程度でふ化し、1〜2カ月のうちには成虫になるという。これはトンボの中でもかなり短いサイクルだ。ふるさととされる熱帯・亜熱帯地域では雨季と乾季がある。雨季のスコールでできた水たまりなどに産卵し、水たまりが干上がる前に成虫になるようだ。この短いサイクルでの産卵・ふ化・羽化を繰り返し、数を増やしながら北上の旅を続ける。

しかしウスバキトンボは寒さに弱い。だからせっかく北上しても、冬を迎える頃には死に絶えてしまう。来た道を戻るということもないらしい。

ウスバキトンボの分布域は、世界で最も広いとされる。移動する性質の強さゆえだろう。とはいえ、どうしてわざわざ海を越えてまでの大移動をするのか、その答えは謎のまま。

ウスバキトンボはまちなかの公園でも近くの河川敷でも田畑でも、私たちのすぐそばに飛んでいる。この夏は、青空を背景に飛ぶトンボの群れをちょっと気にして見て欲しい。

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希

参考文献「トンボをさがそう、観察しよう」(PHP)新井 裕 著