暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.30

湿地にくらす小さな食虫植物ミミカキグサ -耳掻き草-

(2019年9月5日号掲載)

とっても小さなかわいい花

ちょろちょろと薄く流れる水が山の斜面を潤す。太陽の光に照らされ輝く地表に、とても小さな黄色い花を咲かせているのは、湿地の植物ミミカキグサだ。大きさは5ミリほど。よく目を凝らして見ないと気付かないかもしれない。でも、辺り一面、線のように細く、丈の低い草で淡い緑色に染まる中、鮮やかなアクセントカラーを精一杯、散りばめている。

筒状にくっついた花びらの先が、上下に分かれた唇形の花。下の花びらの中央は、こんもり盛り上がり、蜜を吸いに訪れた虫を奥へと誘う台のようにも見える。花が終わると、薄茶色の萼で上下に挟まれた果実が実る。細長く伸びた花茎の先端につくこの姿が、名前の由来ともなっている、耳かきにそっくりだ。

プランクトンをつかまえる

さて、この花には秘密がある。こんなにかれんで、か弱い印象の花なのに、食虫植物なのだ。食虫植物というと、昆虫をトゲのついた葉で挟み込む、というイメージだ。しかし食虫植物の捕獲方法は種によって違う。ミミカキグサの場合、地上部のかれんさはそのままに、目立たないところに獲物を捕る仕組みを持つ。地下茎に1ミリほどの袋がついているのだ。顕微鏡で見ると、びっしりからまった地下茎の、ところどころにちょっとゆがんだ形の丸い捕虫嚢(ほちゅうのう)がある。小さな草が狙う相手は、やはり小さな生物、プランクトンなど。捕虫嚢には二本のひげのようなものが確認できる。これがアンテナの役目を果たすという。獲物がこれに触れるのを合図に、水ごと獲物を吸い込む。ただし、吸い込むことはできても吐き出せないらしい。黒いものがいっぱい入った捕虫嚢がある。これは、プランクトンの殻がたまった状態だという。

獲物は、消化液によりミミカキグサの栄養となる。しかし光合成をするのに、なぜ微生物を捕るのだろう?それは、栄養分の乏しい環境に生育することによる。湿地で地表を流れる水は土や養分をも流してしまう。ミミカキグサは地下茎を張り巡らし、水の流れの中にいる微生物から栄養を補う機能を備えた。これにより、競争の少ない所に生活場所を得たというわけだ。

かつてミミカキグサの育つ湿地環境は、遠州地域には多くあった。しかし、開発などで減少の一途をたどり、現在まとまった湿地環境があるのは、静岡県立森林公園など限られている。

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希