暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.31

晴れた野山で鳴くバッタ ヒナバッタ-雛飛蝗-

(2019年10月24日号掲載)

足元から聞こえる控えめな音

秋晴れの低山。梢(こずえ)にとまったモズが「キーキーキーキー」と甲高い声で秋を告げ、草むらからは「チキチキチキ...」と派手な音を立てながら、ショウリョウバッタが翅(はね)を広げて鈍くさそうに飛んでいく。そんな中、「シュリリリ...シュリリリ...」足元から聞こえてくるかすかな音。意識しなければ鳴っていることにも気付かないような控えめな音がする。どうにも気になって、しゃがみこんで音の主を探す。音はまばらに生えたイネ科の草のあたりから聞こえてくる。しばらく草の上を視線がさまよったあと、突然、ピタリとピントが合う。いた!体長2センチほどのバッタ、ヒナバッタだ。茶色い体が、枯れ草まじりの草むらに完全に溶け込んでいる。が、よく見ると彩度の高いオレンジ色が見え隠れ。オスの特徴でもあるお腹の色だ。ただ、バッタが動かなければこちらが気付くことなど不可能ではないかと思わせるほどの擬態力。肉食の虫や鳥の餌食にならないよう、カムフラージュの完成度は高い。

バッタが鳴く意味は?

鳴く虫といえば、スズムシのように二枚の翅をこすり合わせて音を出すことが知られているが、ヒナバッタはちょっと違う。後ろ脚を上下に小刻みに震わせる。腿の内側にある一列のでっぱり線と翅にあるヤスリ部分をこすりあわせているのだ。スズムシほど美麗な音ではないので、こすり合わせて音を出すと言われても納得の音色だ。音を出すからには耳がある。バッタは、お腹の付け根あたりに鼓膜がある。ここでメッセージを聞き取っている。

バッタが鳴くのにはさまざまな意味があると考えられている。主な目的はメスへの求愛とされているが、なわばりの主張や、オス同士の戦い、威嚇、餌を食べ満足の声などと考える人もいる。とりわけヒナバッタは、多様な鳴き方をするようだ。

こんな場面に出くわした。オスのヒナバッタが小石の上で高らかに一定のリズムを刻んでいる。そこへ、別のオスが同様に音を出しながらにじり寄る。両者が触れるほどに大接近したところで、またゆっくりと離れていった。ちょっとした緊張感の漂うひとときだった。

ヒナバッタは、寒くなる頃まで長い期間見ることができる。日当たりのよい野山の草地でちょっと耳をすませてみて。小さな生き物の暮らしぶりが見えてくるかもしれない。

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希