暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.35

春の風物詩、蛙(かわず)合戦 アズマヒキガエル -東蟇-

(2020年2月20日号掲載)

雨の夜が合戦開始の合図

冬眠から覚めた生き物が動き出す頃を意味する「啓蟄(けいちつ)」。これより一足早い2月中旬頃、遠州地域では「蛙合戦」が始まる。早春の水たまりで、ゼリー質のロープ状のものを見たことがないだろうか?ガマの油のガマガエルこと、アズマヒキガエルの卵だ。アズマヒキガエルは体長6〜14センチほど。陸で虫などを食べる体格のいいカエルだ。

蛙合戦とはつまりカエルの産卵の様子のこと。これが迫力の戦いなのだ。浅い水辺がその舞台となる。生暖かい雨の夜を合図に合戦開始だ。一度始まるとそれは数日から1週間ほど続く。

冬眠していたヒキガエルが一斉に水辺へ集結。途中でメスに出会ったオスはすかさずその背中に乗る。メスはオスを背負ったまま目的地を目指す。水辺では先に到着した多くのオスが姿勢を正し「クックックッ」と鳴き、メスを待つ。ほかにも複数匹のオスが折り重なってだんご状態になっている。一番下にメスがいるはずだが上のカエルの重さで泥水に沈んで見えない。そのカエルだんごからは、ひっきりなしに誰かの足がニュッと伸び、誰かを蹴りあげる。他のオスを蹴落としメスを得ようともがいているのだ。まさに組んず解れつ(くんずほぐれつ)の戦いだ。

熾烈(しれつ)な、メスの争奪戦

メスが産む卵塊にオスが精液をかければ受精完了。これだけのことなのに、熾烈な争いとなる訳は、メスの数がオスの数よりも少ないことにある。横取りされぬようしっかりメスを抱くため、繁殖期のオスの指には黒い滑り止めが現れる。まるでゴム付き軍手のようだが軍手と違い、それは指の側面から上面付近につく。オスはメスの脇腹にグーパンチを食い込ませて抱く。上についた滑り止めはその時役立つ。手のひらではなく、腕力で抱くのだ。ペアのカエルは人が持ち上げたって離れやしない。その力は時に死をもたらす。動くものには何でも抱きつくオス。例えそれがオスであろうとお構い無し。抱きつかれた方はキュウと鳴き「俺はオスだ」と訴える。リリースコールと呼ばれ、これで相手を認識し手を離す。だが水辺のだんご状態の時は、自分の精液が卵にかかればと必死で離れる様子はない。翌朝、内臓が破れ、死んでいる姿を見ることもある。

静岡県立森林公園など、山林に近い水辺なら、透明なロープ状の卵塊が見つかるかもしれない。激しい戦いの末に生まれた尊い命に会いに行こう。

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希