暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.37

新緑の若葉とともに現れるヒメクロオトシブミ -姫黒落とし文-

(2020年4月23日号掲載)

身近に暮らすオトシブミ

新緑のまぶしい季節がやってきた。新たな生命活動の開始に期待の高まる季節でもある。芽吹いた若葉は、その柔らかさの中に生物の成長に欠かせない力をみなぎらせていることだろう。

この若葉を利用するたくさんの昆虫がいる。ゾウムシの仲間、ヒメクロオトシブミもそんな昆虫の一つだ。古の人々の「落とし文」に似た揺籃(幼虫が育つゆりかご)を作る昆虫として有名な「オトシブミ」の仲間だ。ヒメクロオトシブミは、「オトシブミ」という種名のものよりも一回り小さく、体長はたった5ミリほど。おしりの大きなずんぐりした黒い胴体、顔にはゾウムシの仲間の特徴である、でっぱりのある口がつく。おなかの半分と足の、冴えたオレンジ色が目を引く。ただし色合いは地域によって違いがあり、足やおなかが黒いものなどもいる。

オトシブミの仲間は、ある程度決まった種類の植物を食べる。ヒメクロオトシブミは、その範囲が広く、コナラやツツジなどよくある植物を食べるため、実は身近な生き物なのだ。

ゆりかごはメスが作る

4月、葉が開いたばかりのコナラの木を下から覗き込む。陽光で透明感を増した葉の重なりの中に、小さな黒いものが見え隠れ。近付くと、当人にとっては、だだっ広い葉の上に上半身を起こした立派な姿勢で鎮座するヒメクロオトシブミだ。

オトシブミの真骨頂、揺籃作りをするのはメスだ。まずは葉の選定のため、計測するかのごとく葉上をぐるりと歩き回る。葉が決まると、葉の付け根の方に切り込みを入れる。オトシブミの突き出た口の先には鋭利な大顎がついている。この精緻な道具などを駆使し、体の何倍もある葉を操る。次の作業は葉を二つ折りにすること。葉の中央を通る主脈付近を噛み、折れ目をつける。その後、先端から巻き始めるが、最初の二巻きぐらいで一旦止まる。葉に穴を開け、卵を産み付けるのだ。きれいなオレンジ色の卵を守るように巻き上げて終了する。これが見るほどに精巧で、誰に教わるわけでなく、こんな職人技をやってのける生き物に対し素直に驚く。

試しに私も葉を巻くのを真似てみたが、しっかり留めるのは難しい。

近くの公園を散歩がてら、コナラやツツジの葉を覗くと、かわいいゆりかごが見つかるかもしれない。

参考:「オトシブミハンドブック」安田守・沢田佳久著(文一総合出版)

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希