暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.38

初夏の水辺を飛ぶ宝石クロスジギンヤンマ -黒筋銀蜻蜓-

(2020年5月14日号掲載)

「クロスジ」とは?

5月を迎える頃には、さまざまな生き物たちでにぎわう水辺。なかでも水面低く滑空する大きなトンボはひときわ目立つ。「ん?なんか胴体の青いトンボがいる!」。大きなトンボといえばギンヤンマとオニヤンマしか知らなかった頃、クロスジギンヤンマを初めて見たときは、とんでもなく珍しいトンボを発見したかも?!と心踊った。なぜならそのトンボの模様があまりにも美しかったからだ。目を惹きつけ、心奪われたのは、細長い腹部。漆黒の地色に鮮やかな水色の斑紋がてんてんと浮かび上がる。まさに宝石を散りばめたようと表現するにふさわしいデザインだ。胸に走る二本の黒い筋。これが名の由来「クロスジ」だ。普通のギンヤンマには、この筋は無い。この黒い筋が、クロスジギンヤンマの胸の黄緑色をより鮮やかに見せる。ギンヤンマとクロスジギンヤンマは、遺伝子レベルの分類ではとても近い仲間とされるようで交雑することもあるという。当初、とても珍しいトンボかと思ったのだが、実はクロスジギンヤンマはギンヤンマと同じくらい、身近な水辺に見られるトンボのひとつだった。

春、いち早く羽化する

4月中旬の、若葉が芽吹き始めた頃から羽化を始めるクロスジギンヤンマ。体長6センチ以上ある大型トンボの中ではいち早く羽化する種だ。羽化したてのトンボはすぐには生殖活動はできず、しばらくは餌を捕り、体を作る必要がある。5月頃になると、成熟したオスが水草の際を沿うように飛ぶ姿が見られるようになる。自分の縄張りをパトロールしながら産卵に来るメスを待つのだ。カップル成立すると、樹上へ向かい、木にとまった状態で交尾をする。その後メスは、水面に浮かぶ植物などにとまり、腰を曲げるような格好をする。腹の先を小刻みに動かし、時に体の半分を水に沈ませながら、産卵場所を探るようなしぐさを繰り返して植物の組織内に卵を産み付けるのだ。

我が家の庭に作った池。畳一枚ほどの大きさにも関わらず、ある年、14頭ものクロスジギンヤンマが羽化をした。いつの間にかヤゴが育っていたのだ。周りに木々が茂り、浮き草の育つような水辺を好むトンボだが、水草が生える水辺なら、意外に身近なところでも水辺の宝石を見ることができるかもしれない。

参考:「日本のトンボ」尾園 暁・川島逸郎・二橋 亮 著(文一総合出版)

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希