暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.40

初夏の風物詩、おんぶで子育てする水鳥カイツブリ-鳰-

(2020年7月2日号掲載)

ヒナは餌の争奪戦に必死

「ピイ、ピイ、ピイ、ピイ!」初夏の強い日差しがやや傾き始めた午後、ヨシが繁る大きな池のほとりを歩いていると、音量こそ小さいけれど、複数の元気な明るい声がする。音のするほうを見ると、水面にプカプカ浮かぶ小さな黒いものが5つ。潜水が得意な水鳥、カイツブリのヒナだ。双眼鏡でよく見ると、その顔は黒地に白のゼブラ模様、嘴(くちばし)はきれいな朱色だ。少し離れた場所で、水に潜って餌を取っていた親鳥が、魚をくわえて水面にピョコンと姿を現した。ヒナとは違い、黒っぽい全身に、頬から頸(くび)にかけての赤色が目立つ。のんきなヒナは親鳥の登場に気付かないことも。「ピイッ」と一声鳴く親鳥に気付いたヒナたちは、たちまち大騒ぎ!われ先にと親元へ猛ダッシュ。それもそのはず、魚をもらえるのは先着一羽のみ。全員必死だ。

どのヒナもまだ手の平に乗るサイズ。それでも孵化(ふか)してからしばらく日にちが経っているようだ。親の給餌に頼りながらも時折、水に潜っては自分で餌を取る練習を始めている。

おんぶは卒業

カイツブリは、孵化時にはすでに羽毛が生えそろい、自力で泳げる「早成性(そせいせい)」の鳥だ。とはいえ生まれたばかりのか弱いうちは、親鳥はヒナをおんぶして守る。ふかふかの温かい羽毛に埋もれ、顔だけを出して外をうかがうヒナたち。その愛らしさは、見る人の心を撃ち抜く。カラスの襲撃などの危険が迫れば、親鳥はヒナを背負ったまま水中へと避難する。安心安全なおんぶ生活も当然ながら卒業の時がくる。ただ卒業後もおんぶ恋しさから隙あらば、背中に乗ろうとするヒナ。しかし「もう乗せないよ!」と窘(たしな)めるように親は離れ、ヒナを背負おうとはしない。

「五月雨に鳰(にお)の浮巣を見に行む」とは松尾芭蕉の句。「鳰」とは、古語で水に入る鳥を意味し、カイツブリを指す。巣は水辺の枯れ草を円形に集めて作られる。ヨシなどにからみつけられ、まるで浮いているように見える。「鳰の浮巣」は、初夏の季語。昔からカイツブリの子育ては人々に愛され、初夏の風物詩として親しまれてきたことがわかる。

育児はすべて夫婦で協力して行うカイツブリ。親鳥は甲高く「ケレレレ」と鳴くのも特徴だ。求愛や縄張りを主張していると言われる。浜名湖ガーデンパークなど、身近な水辺で見られることがある。声を頼りにカイツブリ一家を探してみては?

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希