暮らし

遠州のいきもの観察記 Vol.43

秋津島の赤とんぼ秋津島の赤とんぼ -秋茜-

(2020年10月22日号掲載)

秋の田んぼで産卵

澄み渡る秋晴れの朝、稲刈りの済んだ田んぼを歩く。トラクターのわだちが作った水たまりがキラキラと日の光を反射している。ふいに何かが視界を横切り、スッとそれは水たまりへ。目で追うと、そこには2頭がつながったまま飛ぶ赤トンボが多数いる。日本の秋の風物詩「赤とんぼ」の代表種、アキアカネだ。赤色からオレンジ色まで「赤とんぼ」と呼ばれるトンボは複数種いるが、アキアカネは本家赤とんぼとでもいうべき種。

秋に現れるアキアカネは、目下、産卵の真っ最中。連結したまま2頭でタイミングを合わせ、振り子のように体を振って卵を産み付ける。2頭はもちろんオスとメス。前にいるオスは、腹部の先でメスの複眼の後ろをつかみ、メスは胴体を振り下ろすタイミングで、腹部の先を泥に突き刺す。メスを捕まえたとき、腹部の先から黄色い卵が溢れんばかりに出てきて、慌てた経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。泥に産み付けられた卵は、乾燥や寒さから身を守り、ひと冬をやりすごすのだ。

アキアカネによる産卵のにぎわいは正午を過ぎた頃から急に落ち着いてくる。リズミカルに産卵を続けていたペアが急に大きく飛び始めたと思うと、パッと2頭は離れて、それぞれ勝手な方向へ散り、秋空のかなたへと去っていく。1ペアが去り、2ペアが去り。まだ産み足りないのか、メスが単独で産卵する様子も見られる。でも単独だと泥に打ち付ける勢いがやや弱そうにも見える。

赤くなるのは大人の印

春、田んぼに水が入る頃、待ってましたとばかりに卵がかえる。ヤゴは脱皮を繰り返して成長し、やがて田んぼが中干しに入る時期には羽化し、成虫となる。するとすぐに田んぼを離れて山へと向かう。アキアカネは夏を標高の高い涼しいところで過ごすのだ。羽化したての未成熟なアキアカネはまだ黄色い。赤くなるのは成熟の印なのだ。秋を迎える頃には立派な赤とんぼとなり、田んぼへ戻ってくる。

「秋津島」とは日本を表す、いにしえの言葉。秋津はトンボを指し、トンボの国という意味だ。童謡にも歌われ、かつては何千というアキアカネが乱舞したと聞く。しかし農薬などさまざまな要因が指摘されているが、1990年代後半以降、アキアカネは各地で激減中だ。今、遠州で見られるアキアカネも喪わぬよう大切に見守りたい。

文・イラスト 浜松市環境学習指導員 瀬下 亜希