人物

いま輝く人 びぶれ・インタビュー

梓澤要 作家

(2016年3月24日号掲載)

来年度の大河ドラマの主人公として、一躍脚光を浴びることとなった女性領主・井伊直虎。磐田市出身の歴史作家・梓澤要さんが、彼女を題材にした小説「女(おなご)にこそあれ次郎法師」を執筆したのは今から10年前のことだった。

「当時、執筆していた別の小説で気賀の関所のシーンを描く必要があり、引佐や細江のことを調べ始めたのがきっかけでした。龍潭寺にある井伊家の系図を読んだ時に、『次郎法師・井伊直盛の娘』と書いてあるのを見つけたのです。女性なのに『次郎法師』と男の名が付いているのはなぜだろうと興味を持ちました」

戦国時代、駿府に一大勢力を築いた今川氏に従いながらも、絶えず滅亡の危機にさらされ続けた井伊家。小説では、領地である井伊谷(引佐)を舞台に、歴史に翻弄される女領主の一生を描いた。

「最近、周りの人からも『直虎ってどんな人?』と聞かれます。中には『ベルサイユのばら』のオスカルみたいに、男として育てられ、戦って活躍した女性と思っている方も結構いるみたいです。実際はお姫様として育てられ、自分が当主になるなんて夢にも思っていなかったでしょうね」

井伊家当主・直盛の娘として生まれた直虎だが、少女時代の名前は分かっていない。ゆくゆくは一族の中から婿養子を迎え、次期当主の妻として生きることを約束された身分だった。

ところが今川氏の命令によって、親族が次々と殺されるという悲劇に見舞われる。婚約者とも引き離された彼女は尼となり「次郎法師」と改名。その後も粛正の嵐は止まず、一族の男子は幼い虎松(後の井伊直政)だけとなってしまう。そこでやむを得ず次郎法師が当主となって「直虎」と名乗り、虎松の後見人になった。

今月、アクトシティで行われた梓澤さんの
直虎講演会には大勢の人が集まった

「井伊家は名門の一族でしたが、この時代は本当に波瀾万丈で滅亡寸前まで追い込まれてしまう。そこから再興を果たすまで、直虎をはじめ一族の人々がそれぞれの役割を果たして全力を尽くそうとする。そのけなげさにひかれて、ぜひ小説にしたいと思ったのです」

小説の中の直虎は、決して勇猛果敢なヒロインではない。尼僧らしく、穏やかな心と辛抱強さを併せ持ち、家臣や領民に慕われる存在として描かれている。

「戦国時代ですから今と違って女性が世に出ることはほとんどありません。でも、賢い女性はきっとでしゃばることなく、家中をまとめあげていたはずです。女性がちゃんとしていると家庭が成り立つ。これは案外、今と同じかもしれませんね」

【主な活動】

2006年、井伊直虎を題材にした歴史小説「女にこそあれ次郎法師」を執筆。単行本は今月、角川書店から再販された。

【PROFILE】

磐田市生まれ。明治大学文学部卒。雑誌編集者、フリーライターを経て、1993年「喜娘」で第18回歴史文学賞を受賞してデビュー。代表作は「阿修羅」「捨ててこそ空也」「光の王国」など多数。