特集

女心に響く!

はじめての木下惠介

(2012年3月22日号掲載)

木下惠介ってどんな人?

tokushu120322B2.jpg 1912年、浜松市伝馬町の食料品店に生まれる。浜松工業学校(現・浜松工業高校)を卒業後、上京し松竹に入社。黒澤明と同時期に監督デビューし、戦後の日本映画黄金期をリードした。日本初の長編カラー作品「カルメン故郷に帰る」や、多くの映画賞を受賞した「二十四の瞳」をはじめ、昭和の人々の喜怒哀楽を緻密な構成と情感あふれるタッチで描いた。 tokushu120322A1.gif

やっぱり女性は強かった!

作品を通じてさまざまな女性を描いた木下惠介。そこで木下映画ビギナーの女性3人が木下惠介の監督作品「女」を鑑賞し、木下惠介記念館館長・齊藤卓さんを交えて感想を語り合いました。


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【描くオンナ】 戸塚ゆうさん
風景画や陶芸の制作を行い、ギャラリーなどで展示している。かつては自主上映団体シネデプレにも所属。「地元出身の巨匠ということで木下監督の存在は知っていました」

【働くオンナ】 塩崎明子さん
夫とともに株式会社颯爽を立ち上げ、人材育成や就労支援を中心に活動している。環境型地域活性化団体ひまわり2525プロジェクト代表。「はままつ映画祭のボランティアをしていましたが木下映画は初めて」

【支えるオンナ】 揚張(あげはり)あや子さん
手作りジャムを販売。授産施設「くるみ共同作業所」と協力して障害者雇用を目的としたジャム作りを指導している。「木下作品は観たことないですが、記念館の建物がステキだなといつも思っていました」

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今回観た作品 「女」(1948年)
ある日、踊り子の敏子は強盗を犯した恋人の正(ただし)から「一緒に浜松へ逃げよう」と話を持ちかけられる。犯罪者である正を憎みながらも、別れることもできずに引きずられていく敏子。メインキャストはたったの二人、男女の逃避行をオールロケで描いた実験的な作品。





男ってほんとバカ!

ー今回観た「女」は強盗犯であるダメ男・正と、そんな男と別れられずにズルズルと連いて行ってしまう敏子の逃避行が描かれていました。どんな感想を持ちましたか?

【明子】 すごく率直に言っちゃうと本当に男ってバカだな〜って思いました。いつの時代にも口先だけの男や、女を利用しようとする男はいるものだと。そんな男から逃げようとしない敏子も、見ていてウズウズしたけど。

【あや子】 男の人のワガママにほんろうされて敏子の気持ちがどんどん変化していきますよね。それに合わせて音楽も変わっていくので、女性の強さや弱さといった心の動きがよく描かれていたと思います。

【ゆう】 良い意味でベタな内容だったので、すごく面白かったです。男と女のシンプルな描き方や、話の筋、人物の表情、音楽などがかみ合ってうまくストーリーに乗せられましたね。なおかつ、ところどころでリアルな社会描写があって現実に引き戻される感覚もあり、さすが巨匠といった感じ。
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【明子】 トラックの荷台に乗ってトンネルを3つほどくぐるシーンがありましたが、暗闇を抜けるたびに二人の距離感が少しずつ縮まっていく演出が面白かったですね。途中でキスでもするのかな?とも思いましたけど…。

【館長】 木下監督は前作でキスシーンを撮っているのですが、この作品ではそれをあえてやらなかった。そうすることで逆にエロティックな男女の雰囲気を醸し出すことに成功していますね。

ー結局、敏子はあの男のどこが良かったんでしょうか?

【明子】 ちょっとワルなところにひかれるのかな。ダメな男の方が母性本能をくすぐられる感じっていうの?

【あや子】 顔がカッコよくなくても、話が楽しければ引き込まれることもありますよね。

【ゆう】 路上で演奏している楽団の音楽に合わせて、正がのんきに鼻歌を歌うシーンがありましたよね。逃げている途中なのに。あれなんか本当にバカ〜って感じするよね。「そんな場合じゃないでしょ!」って思うんだけど、ちょっと笑えもする。そういうところがカワイイって思っちゃうのかな。

【あや子】 子どもっぽいってことなんでしょうね。

【ゆう】 いや、子どもなら良いけど、あれは子ども以下だから(笑)。


恋愛ゲームに酔っている?

tokushu120322B3.jpg ーあの二人って、本当に愛し合っていたんでしょうか?

【明子】 敏子の方は正のことを好きなんだと思ったけど、正は絶対敏子のことを愛してないよね。始めに敏子が正に呼びつけられて箱根まで行くけど、自分の仕事を投げ出してまで行くには愛がなきゃできないと思うし。反対に正はずっとニヤニヤしっぱなしで、敏子を利用することしか考えてない。

【ゆう】 私は二人とも全然愛し合ってなかったと思う。お互いにあえてベタな男女関係を演じることで、恋愛ゲームを楽しんでいるという感じ。敏子だって自分がだまされていることぐらい、きっと分かっていたはず。

【あや子】 演じつつも、だんだんと相手を好きになっていったり、自分に酔っていったりしているんじゃないでしょうか。見ている方が想像を膨らませて、自分だったらどう思うかと考える面白さがありますよね。

【館長】 木下惠介というとよく「ヒューマニズムを描いた監督」といわれるんだけど、これはそういう作品ではない。筋書きもそうですが、カメラを傾けて撮影したり、アップを多用したりして実験的な試みをしています。

ー皆さんはこの作品にどんなメッセージがあると感じましたか?

【明子】 女性の心は移ろいやすいものということは強く感じましたね。妥協との戦いを常にしているというか。正のことはもうイヤだと思っているはずなのに、甘えてくるしどうしようかと気持ちが揺れ動いている。でも最終的には女の人は強いってことも分かる作品だと思う。

【あや子】 劇中にときどき子どもの声が出てきますよね。それが敏子に、幸せな家庭を築くことへのあこがれを思い出させて、男の人と別れられない気持ちにさせているのかなと思いました。そういった音声や効果音の使い方が印象的でしたね。モノクロで細かな情報を伝えられないからこそ、感情に訴える力がすごく強い気がする。

【ゆう】 クライマックスの火事のシーンはサイレンやざわめきがどんどん大きくなっていって、すごく激しい場面でしたよね。あそこは本当に面白かった。

【館長】 実は火事シーンには実写も使われているんです。撮影現場でたまたま火事に出くわしてフィルムを回したそうです。黒澤明もあのシーンを見て「スゴイ。僕にはできない」って称賛したんですよ。

【一同】 へえ〜(驚)。

ーところで、こういう男女関係って今の時代でもアリだと思いますか?

【明子】 悪い男にだまされて〜という人はいるんだろうなって気はする。あまり共感はしたくないけど…。

【ゆう】 でも、正って悪ぶっているだけで、全然悪人には見えないんですよね。自分だったら遊び感覚で、まあ付き合ってあげよっかなって思っちゃうかも。

【あや子】 今だったら反対に、正のような女性もいるんだろうなと思います。男性を利用しようとする女性というか。

【明子】 悪女みたいなね。今の恋愛は男より女の方が賢くなったから(笑)。

※座談会文中敬称略


齊藤館長が選ぶ 木下映画“いい女”ベスト5

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【1位】 相原 小夜子
|女優|田中 絹代
|作品|不死鳥
第二次世界大戦中に恋人と出会い、死別という破局の中で力強く生きる小夜子。「風と共に去りぬ」が日本で公開される前に、スカーレット・オハラ以上の気骨を持った女性像を撮った木下惠介の鋭さが伝わってきます。

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【2位】 林 敏子
|女優|水戸 光子
|作品|女
戦後を生きる解放された女性像で、木下惠介作品の中でもセクシャルな魅力をにじませたヒロイン。現代にも敏子のような女性は生きているような気がします。

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【3位】 鳥羽 三香子
|女優|桂木 洋子
|作品|善魔
三國連太郎が同名役で映画デビューした記念碑的な作品のヒロイン。三香子のような女性に出会うと、愛情についてもっとしっかり考えなければと思うことでしょう。

【4位】 芸者 みどり
|女優|有馬 稲子
|作品|惜春鳥(せきしゅんちょう)
比較的少ない出番ながら、彼女が舞う「白虎隊」が本作の核心。自ら命を絶つみどりですが、女心の強さとせつなさ、男への愛の誠実さと不条理さを残しました。

【5位】 おきん
|女優|高峰 秀子
|作品|カルメン故郷に帰る、カルメン純情す
“リリー・カルメン”ことおきんは、戦後女性の自由奔放な生き方を先取りした永遠のヒロイン。こんな女性が目の前に現れたら、かなり混乱してしまいますね。

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