特集

日本の現代舞踊を磐田から世界へ発信する佐藤典子さん

(2018年8月30日号掲載)

第35回江口隆哉賞 文部科学大臣賞を受賞
15歳で出会った現代舞踊の創始者であり師の石井小浪。
受け継いだ「心の踊り」を未来へ伝えていくのが私の使命。

佐藤典子舞踊生活70周年プレイベント「アクトの丘にショパンを舞う」

浜辺の歌(原振付/石井小浪、復元再構成/佐藤典子)、アクトシティ浜松大ホール、2017年12月

「哄笑」石井小浪、1938年

「自分では70年経ったと思えないのよ」と、背筋をぴんと伸ばし、ハリのある声で話す佐藤典子さん。15歳の時に、「東洋の真珠」と絶賛された名舞踊家、石井小浪に魅せられ舞踊の世界に入り、今年70周年を迎えました。

見付高等女学校(現・磐田北高)在学中に戦争を経験した佐藤さんは、人間の愚かさを知り、「二度とあのようなことがあってはならない。舞踊でも本物を伝え、子どもたちに豊かな心を教えたい」と決意。 「踊りの名手は星の数ほどいます。辛い心を抱えた人が見たときに温かく心潤う、また踊ることによって心がなぐさめられる、そんな子守歌のような踊りなら作れるのではないか」と考え、結婚を機に磐田に腰を据え、佐藤典子舞踊研究所を拠点としてバレエ教室を県西部に展開していきました。

「巧みに踊ることが上手いと教えるのではなく、人と違う自分をどれだけ磨いていけるかを教え、その子その子の花を100%開かせること。バレエを通じて柔らかい心を育んで欲しい」と佐藤さんは、舞踊教育について語ります。

また、公演作品も次々と手掛けて、創作やプロデュース、和楽器やさまざまなアーティストとのコラボレーションなど、活動の幅を広げながら、80歳を超えた今も、情熱をもって公演を行い、後進の指導にあたっています。

今年、第35回江口隆哉賞と文部科学大臣賞を受賞し、来年は東京オリンピックパラリンピック静岡県文化プログラムプレ公演を磐田で行います。その制作責任者でもある佐藤さんは、師である石井小浪の思いを受け継ぎながら、全国へ、さらに世界へと日本の現代舞踊を発信し続けます。

現代舞踊家。佐藤典子舞踊研究所主宰。佐藤典子舞踊団代表佐藤典子

プロフィール

1931年 静岡県磐田市に生まれる

1945年 15歳。日本現代舞踊の創始者石井小浪に師事、入団

1950年 磐田市に佐藤典子舞踊研究所を開設

主な受賞歴

1981年 日本芸術舞踊連盟功績賞/1992年 静岡県知事表彰(教育・学術・文化)/1998年 文部大臣表彰(地域文化功労)/2011年 春の叙勲 旭日双光章受章/2016年 平成28年度(一社)全国児童舞踊協会特別賞/2018年 第35回現代舞踊協会・江口隆哉賞、文部科学大臣賞

江口隆哉賞について

わが国における現代舞踊の振興と協会の繁栄に尽力した故江口隆哉元会長の功績を記念して、1983年に制定されたもっとも権威ある現代舞踊賞。毎年1月1日~12月31日までの期間、優れた現代舞踊作品を創作発表した作者に対し、「アクトの丘にショパンを舞う」を企画・監修し、色彩豊かな公演をまとめあげた創作力が評価された。

文部科学大臣 第35回江口隆哉賞
(一社)現代舞踊協会 江口隆哉賞

芸術文化は人間になぜ必要なのか? 地域芸術文化のありかたとは?「地域の芸術文化を考えるシンポジウム」

佐藤典子先生の「第35回江口隆哉賞・文部科学大臣賞受賞」を祝う会に際し、東京オリンピックパラリンピック静岡県文化プログラム磐田プレ公演実行委員会主催により、「地域の芸術文化を考えるシンポジウム」が行われました。

平成30年7月21日(土) 磐田グランドホテル
芸術文化の役割と力とは?
静岡県知事 川勝平太氏

京都府出身。元静岡文化芸術大学学長。平成21年より静岡県知事、現在3期目

SPAC芸術総監督
宮城 聰氏

東京都出身。平成19年SPAC芸術総監督に就任。平成29年度芸術選奨文部科学大臣賞(演劇部門)受賞

磐田商工会議所会頭
高木昭三氏

浜松市天竜区水窪町出身。磐田信用金庫会長、磐田こどもミュージカル育成委員会委員長なども務める

現代舞踊家 佐藤典子さん

佐藤典子舞踊研究所主宰 佐藤典子舞踊団代表

コーディネーター 演出家 児玉道久氏

佐藤典子舞踊研究所の舞踊台本、演出を務める。名古屋芸術大学芸術学部音楽領域の客員教授などを務める

宮城
僕は中高一貫校でしたが、中1の時に秋の文化祭で初めて高校の演劇部の芝居を観ました。その芝居に出ていた高校1年の野田秀樹さんに鮮烈な印象を持ったのです。舞台においては、人間のコンプレックスが人を輝かせる手品みたいなことが起きるのではないか。そう思い、高校で演劇部に入り、いま演劇を生業としています。若い時は、自分と他人を比べてコンプレックスを持つもの。人間は昔から孤独と向き合ってきました。ハムレットのように、孤独と向き合う人間が芝居には出てくるんですね。そこで、みんな「ああ、自分だけじゃないんだ」と思う。最近の子どもたちは、先生を見ないし、肉体と向き合う時間がない。現代は、遊びも物を買うのも、人と向き合わなくてもできます。昔はキレる前に気づいて手当していましたが、今は体が発するセンサーに気づかない。でも、本当は、接すれば「人間っていいな」と思い、許せるはず。演劇は「肉体をのぞく」ものであり、孤独と向き合う力を観る人に与え、言葉と演技でつながろうとするものなのです。
川勝
私自身は、舞台芸術に関して、静岡文化芸術大学に来て、支える者へと大きく変わりました。これからは文化力が大事です。「走れメロス」は小説で読んでも感激しますが、実際に目の前で演じられると、間に合うかどうかと必死に観てしまいます。和太鼓などはビデオより生の舞台のほうが心に響きます。本物は人を一気に変える力を持っています。
高木
私が芸術文化に関心を持ったのは、二十数年前、磐田市民文化会館の運営委員会委員として佐藤先生にお会いした時からです。長年の稽古で身につけた精神的・肉体的・理論的強さ、そして活力。演奏家やダンサー、照明といった皆さんをまとめあげる総合力も持っています。そこに舞台芸術の魅力を感じています。文化と経済は、連帯感をもって進めば、総合的な良さが出てきます。文化が社会を支え、社会が文化を支える。住んで良かった、住み続けたいまちをつくるためには、文化度を上げることです。
佐藤
「芸術文化」と「文化芸術」。いつから引っくり返ってしまったのかと考えています。芸術や文化の話になると、立派な仕事をなさっている方が「俺にはわからない」「苦手だから」と言います。戦国武将も茶道を極めた日本で、いつから趣味・習い事の世界に追いやられてしまったのでしょう。だいぶ前の市長が、新聞記者に「文化とは一言で」との質問に、「文化とは腹の足しにならぬもの」と答えました。ぎょっとしましたが、市長は続けて「だけどね、人間が人間らしく生きていくためには必要欠くべかざる、心の糧なんだよ」と。人間が他の動物と違うのは何なのか。人間が人間らしくあり続けることをみんなが考えるならば、豊かなまちになるのではと思います。
オリンピック、パラリンピック文化プログラムプレが磐田で
高木
4年前、全国知事会議で、川勝知事が「2020年に向けて、全国から地域固有のプログラムを発信すべき」と発言したのを機に、いま各地で盛り上がりをみせています。多様性、地域の資源という意味では、磐田には日系ブラジル人を含め外国人も多く住んでいますから、何か国際的なことができないかと。磐田市を指名していただき、来年9月23日開催と決まりました。テーマ、内容については佐藤先生に投げかけているところです。
川勝
オリンピック・パラリンピック、ラグビーワールドカップと、今後大勢の人が世界から静岡県にも訪れます。そこで芸術という花を咲かせるために、その周りや土の部分、風景、人や食など、すべてにおいて同じ感動を与えられるよう、「ふじのくに芸術回廊」の実現を目指して推進しているところです。
佐藤
他県の方から「佐藤さんはいいわね、静岡県だもの。文化に理解がある知事がいるから」と言われますが、私は幸せなところにいると思います。来年のプレ公演では、静岡県でなければ表現できない作品を皆さんに観てもらうお手伝いをさせていただきたい。
地域の芸術文化のあり方をみんなで考えよう
宮城
若いうちに芸術文化に触れる機会が多いほうがいいのに、東京にチャンスが集中し過ぎています。たとえ、クリエイティブなことをしたい若い子がいたとしても、首都圏に行ってしまう。若い人たちが、静岡県に住んでいても人生のイメージが広がり、人生の選択肢が案外いろいろあるんだな、と思えるようになってほしい。SPACでは、年間1万5千人以上の中高生を招いています。それが20年続けば、親子で演劇について語り合える。土壌から変わりますよね。そんなこと実現できるのは日本中で静岡県だけです。東京を経由しなくても直接世界の観客とつながるって素晴らしいと思いませんか。芸術を支援するというのは、所得の再配分の一種。放っておいたら、金持ちだけのものになります。芸術は人間らしく生きるために必要なもの。武力や経済などは勝ち負けの世界ですが、芸術には勝ち負けがない。支援で再配分し、他が「静岡をみろよ」となってほしいですね。
高木
子どもたちは無限の可能性を持っています。卓球の水谷君や伊藤さんもそうでしたが、やるとなったら、徹底的に指導を受けられる環境をつくり、きっちり応援する体制を整えることだと思います。
川勝
磐田はいいですよね。クロスオーバーコンサートなど高木さんたちの活動には基本理念がある。大切なのは、未来のために、子どもの時代から身につかせておくこと。十代の前半で、一流のありとあらゆる生き方、道を見せ、本物に出合う機会を用意することだと思います。惹き付ける力を持つことですね。
佐藤
トルコの旅に行った際、通訳の若い青年がこう言ったんです。「日本に帰ったら、子どもたちに伝えてください。ふるさとを大事にしてくださいと。自分の命と同じ、たった一つしかないものですから」と。今の川勝知事の言葉とともに忘れず、プレ公演のプログラムに携わりたいと思います。
児玉
地域の芸術文化を考えるということで、地域の子どもや次世代を担う若者を対象にするというお話がありました。実現のためには、県、市、財界、企業、文化団体、アーティスト、密接な連携が大切です。芸術文化によるまちづくりも頭に入れておきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。
2020年東京オリンピック・パラリンピック文化プログラムとは

オリンピック憲章に基づき、日本全国で「文化プログラム」が行われることになっており、静岡県では、様々な文化資源を生かしたプログラムが県内各地で展開されるよう地域の取組を促進している。

磐田市クロスオーバー実行委員会とは

2006年発足。異なる世界観やメッセージなどが互いに交差・混合することで新たなメッセージを発信していく「クロスオーバーコンサート」を開催。そこから生み出される文化的エネルギーをもとに、芸術文化と産業経済の両面から、魅力ある地域の創造と振興を目指している。

65周年佐藤典子同門会「全員集合」(アクトシティ浜松 大ホール・2013年8月)
磐田こどもミュージカル

ミュージカルを通じた人間育成を行うとともに、磐田市から全国へ向けた文化発信をめざしている。2年に1度の入団オーディションに合格した小学3年から中学3年までの子どもたちで編成されている。

ニューヨーク・ジャパンフェスティバル

ニューヨーク市アジア局と民間の共催で日本との相互理解を深めるために1991年より始まったフェスティバルに参加。1993年4月、リンカーンセンター・アリスタリーホール

佐藤典子プロデュースによる舞踊公演 グランシップ提携公演事業 New Wave「ふしぎ動物園」より

原作/槇なおこ(Alphact)、脚色/佐藤典子、出演/Alphact、佐藤典子舞踊団、佐藤典子同門所属バレエ教室、グランシップ中ホール、2014年3月