特集

倉本聰の世界観と点描画展

(2020年11月5日号掲載)

森の樹々やそこに息づく生き物たち、地面の下の樹の根など、物言わぬ者たちの声に耳を傾ける倉本氏ならではの世界観が広がる。

10月3日から「磐田市香りの博物館」で開催されている「倉本聰 点描画展」。前日の2日に開かれたオープニングセレモニーでは倉本氏も会場を訪れ、作品への思いや自身の自然観、人間観を大いに語りました。

磐田との30年におよぶ親交があってこそ

倉本 聰(くらもと そう)

1935年東京生まれ。'63年脚本家として独立。'77年北海道富良野市へ移住。'84年役者や脚本家を養成する「富良野塾」を主宰。代表作に「北の国から」「前略おふくろ様」「昨日、悲別で」「やすらぎの刻〜道」など多数。2006年より「NPO法人C・C・C富良野自然塾」も主宰し、閉鎖されたゴルフ場に植樹をし、元の森に返す自然返還事業と、そのフィールドを使った教育プログラムにも力を入れている。

北海道富良野を拠点に、数多くのドラマや映画を世に送り出してきた著名な脚本家・倉本聰氏が、今回なぜ磐田市へ?そう疑問に思われた方も多いのではないでしょうか。実は倉本氏と磐田との間には、30年にもわたる歴史があるのです。

始まりは1990年に開かれた「倉本聰文化講演会」でした。以来、倉本氏が主宰する演劇集団「富良野塾(現・富良野GROUP)」の舞台や講演会などの開催を通じて、磐田との交流が今日まで続いています。

新型コロナウイルスの感染拡大により、「北海道を出るのは今年2月以来。磐田の実行委員会の方々に『来い来い』と言われ、強引に連れて来られたんですよ」と冗談交じりに話す倉本氏。そうした磐田との30年間の親交があったからこそ、今回の「点描画展」開催と倉本氏12回目の来磐が実現したのです。

1本1本の樹にドラマを見出して

倉本氏は脚本家として多忙な日々を過ごす傍ら、ライフワークとして十数年にわたり、富良野の森や旅先で出合った「樹」にドラマを見出し、点描画を描き続けてきました。点描画という手法を用いたのは「テレビの画素がヒントだった」と言います。

「画素をイメージして、ペン先で点を打つ。その点の太さや濃淡、密度で樹を描くことがだんだん面白くなっていきました。と同時に、樹が語りかけてくるような気がしてきたのです」。周辺にある無数の樹を見て、倉本氏はそれぞれの樹に人生があることに気づきます。

「この樹はいつ頃生まれ、どんな青春時代を送ったのだろう。苦労したのだろうか...」。想像しながら絵を描いているうちに、樹が語り出した言葉や倉本氏自身が日々感じたことなどを文章にして絵に書き添えるようになり、独自の点描画の世界が築かれていきました。

今回の点描画展では、JR磐田駅北口にある樹齢約700年のクスノキを描いた作品も特別に展示されています。その作品について、「人は簡単に"樹齢500年、1000年"と言うけれど、樹齢500年なら生まれは安土桃山時代です。織田信長と同じ頃に芽を出して、その後も生き続け、人間の社会の変遷をずっと見てきたわけですから、歴史の重みが全然違います」と、作品に収まりきらないほどの圧倒的な大きさ、重みを磐田駅前のクスノキに感じたと倉本氏は言います。

さらに、「人間というのは頭に脳があって、脳から司令を出しています。ところが樹を見ていると、樹の脳は地下にあり、『そろそろ花を咲かせろ』とか『葉を散らせ』と、根っこのある下のほうから司令を出しているように思えるのです」。上ばかりを見て、部長から常務、常務から専務、専務から社長と、てっぺんを目指したがる人間とは「逆のような気がする」と、独特の自然観を語る倉本氏。そんな樹の根に魅力を感じ、地上に見える部分だけでなく、「地面の下の根っこまで想像しながら樹の絵を描いている」と話していました。

ドラマ創作に関する貴重な資料も展示

開催中の展覧会では、倉本氏が描き続けている点描画から約60点を厳選して紹介しています。身近な自然を見つめて描いた作品には、樹々や動物の喜怒哀楽の姿が表され、そこには倉本氏が感じ取ったユーモアあふれるつぶやきやメッセージがつづられています。まさに、脚本家・倉本聰ならではのアート作品に仕上がっています。

また、ドラマ『北の国から』など、代表的な作品の台本や企画書、スケッチ、登場人物の履歴表など、執筆活動の一端が垣間見える貴重な資料も展示されています。

香りの博物館らしく、北海道のアカエゾマツやラベンダーといった樹や花の香りとともに展示が楽しめるのも特徴です。倉本氏の点描画展は、来年1月17日まで開催されているので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

  • 会  場/磐田市香りの博物館
  • 開催時間/9:30~17:30(入場17:00まで)
  • 休館日/月曜日(祝日の場合は翌日休館 ※12/28は開館)、12/29~1/2
  • 入 館 料/一般800円 学生200円 小中学生100円
  • 問い合わせ先/☎︎0538-36-8891

10月2日(金)に倉本聰氏を招いてオープニングセレモニーが開かれ、内覧会やテープカット、倉本氏自らが語るギャラリートークが行われました。
倉本先生の想いを感じてもらいたい磐田市長 渡部 修

この度、磐田市での点描画展の開催、またコロナ禍にも関わらず倉本先生ご自身にお越しいただいたことを心からうれしく思いますし、倉本先生と磐田市とのご縁を強く感じました。このご縁は、市民の皆さんの想いが紡いできたものです。点描画展には多くの方にご来場いただき、倉本先生の想いを感じてもらいたいと思いますし、今後もこのご縁を大切にしていきたいと思います。

自然に対する変わらぬ想いに感動実行委員会 会長 鈴木裕司

今から30年前の1990年、倉本先生に初めて磐田に来ていただき、一緒に桶ヶ谷沼を散策したことがあります。その時、「自然というのは、目で鼻で口で耳で肌で、いわゆる五感で感じるものですよ」と言われたことを今でもよく覚えています。先生の点描画には、自然に対する変わらぬ想いが込められているようで、添えられた文章とともに楽しく、また感動しながら拝見いたしました。

取材協力/倉本聰 点描画展磐田実行委員会