特集

高校生が見つけ、発信する、地域の宝。

(2021年11月11日号掲載)

地域の魅力発信活動を教材化した、浜松学芸高校・地域創造コース。地元のプロフェッショナルと協働しながら、高校発のイノベーションを目指す。

"中高生には共感を、大人にはどこか懐かしさを感じる青春を演出する"が活動ポリシーの一つだ。

浜名湖プロジェクトで再発見

浜名湖プロジェクトで制作したポスターを見る生徒たち。地域調査班と協働して制作したポスターは、KAReN HaMaNaKoかんざんじ荘での展示や松坂屋静岡店での単独ポスター展開催などで、多くの方の目に触れている。

浜名湖畔の放置竹林の竹で筏を作って乗り、湖の島に向かってこぎ出す高校生たち。その映像をドローンで撮影する。そんな動画を作っているのは、浜松学芸高校地域創造コースの5人の生徒たちだ。これは高校生の観光動画コンテスト〈観光甲子園〉の準決勝のための動画。SDGsの視点を盛り込んだ体験型の修学旅行プランというテーマに基づき、自分たちでストーリーを考え、映像プランを練り、そして出演して制作している。同コンテストでは2020年度と2019年度にグランプリを受賞しており、今年度は3連覇を狙う。今回の動画制作は、身近な浜名湖地域を「海と山の結節点」「都市と山間をつなぐ里山」としてとらえ、その魅力を再発見してもらおうという「浜名湖プロジェクト」の一環として行っている。

課外活動からコース設立へ

地域の人たちと一緒に筏作り。浜名湖を訪れ放置竹林の問題を知った高校生たちが、地元の人や仲間たちと協力して、竹を刈って、竹粉入りうどんを作って流しうどんをしたり、筏や竹炭を作ったりしてゆったりした時間を過ごす中で、絆を深め、将来を見つめ直し、浜名湖がかけがえのない大切な場所に変化していくというストーリーだ。

浜松学芸高校のこのような活動は、6年前に始まった課外の探究活動である社会科学部地域調査班に端を発する。地域の魅力を探して発信しようという地域調査班に集まったのは、最初はたった5人の生徒。「何もない」と思っていた地元の魅力を探すうちに、彼らは天竜浜名湖鉄道の景色に出会って心ひかれた。そして「天浜線勝手に応援団」と名付けてポスター制作に取り組む。どこか懐かしい沿線の風景に青春の甘酸っぱさを重ねたポスターはクオリティを認められ、全駅ポスターやカレンダー制作に発展。ついには天浜線80周年記念のオフィシャルポスターを制作するまでに至った。さらに「森林公園勝手に応援団」、「はままつ街中胸キュンプロジェクト」など、地域の企業や団体と協働しながら部の活動は拡大。参加する生徒も増え、彼らの「もっと知りたい、活動したい」という熱量も高まっていった。そこで、この地域調査班の地域と関わる学びを発展させ地域活性化につなげていこうと、2020年度、活動を指導してきた大木島詳弘教諭をプロジェクトリーダーとして、普通科に地域創造コースが創設されたのである。

地域のプロの力を借りる

プロジェクトを進めるときは黒板を使って活動の根幹となるロジックを可視化して考えを共有する。観光甲子園にはロジックをまとめたパワーポイントも提出する。左は地域創造コースプロジェクトリーダーの大木島教諭。着用しているシャツは次ページで紹介する注染浴衣プロジェクトで制作した「美縒」だ。

地域を題材にした学びを3年間通しての系統性を持ったものにするために、地域のプロフェッショナルとの連携を重視した。地域創造コースでは学校側とさまざまな業種の地域企業によるコンソーシアムを組織してカリキュラムを開発。プロジェクト型学習によって各分野のプロと関わりながら商品づくりやイベント企画などを行い、その成果を発信する。

浜名湖プロジェクトにおいても三ヶ日町観光協会が全面協力。生徒たちの要望に応じて、撮影場所を選び、協力者を募り、必要な許可を取るなどきめ細かくコーディネートをしている。三ヶ日町観光協会の田中規雄さんは「観光協会だけでは発信する力に限度がありますが、地域の資源を使って新しい発想でいろんな形で世間に発信してくれる。その創造性に感心させられます。天浜線のポスターも、そこには胸に響くストーリーがあり感動します。生徒たちを応援したいし、この子たちの姿を見ているだけでとても刺激になります」と熱いエールを送る。生徒たちも「やりたいことを実現させてくれる方々がいるからこそ、自分たちの活動ができるので、感謝しています。大人の方々との関りはとても楽しいです」と、生き生きと話す。地域との協働は、生徒にも地域にも充実した手応えをもたらしているようだ。

地場産業の注染でシャツ作り

地域創造コースでは、浜松の地場産業である注染(ちゅうせん)ゆかたを盛り上げるプロジェクトにも取り組んでいる。最盛期には浜松に100社を超える注染ゆかたの染色工場があったが、現在は4社のみとなっている。伝統産業が衰退する現状に危機感を持ったことから、5年前に地域調査班で浜松注染ゆかた卸メーカー、白井商事株式会社との協働が始まった。

最初は新作ゆかたのPRポスターとカタログの制作を手掛け、2018年からは浜松注染染めの生地を使ったシャツ作りの取り組みを開始。白井商事のほか地元の縫製業者やパタンナーと協働し、オリジナルシャツブランド「美縒(びより)」を立ち上げた。このシャツは、2019年度から学校の夏の準制服として採用されている。そのほか、創作盆踊りイベント「浴衣De Night」など、イベント活動も活発に展開している。

地域創造コースが発足してからは、まず1年生のプロジェクト学習の一つとして、注染ゆかたの配色案を考案し、実際に染めを体験するという活動がある。この学習を生かして発展させ、ゆかた生地を用いたオリジナルシャツの市販化に挑戦しようというグループが今、2年生で活動中だ。彼らはオリジナルシャツブランド「美縒」の柄と型紙をもとに新たな配色案を考え、さまざまな候補の中から「みかん」「遠州灘」など4種類の配色を選定。現在は、染色を行う二橋染工場の職人や白井商事と実際に染色する色を調整しているところである。このシャツは、浜松市公式オンラインアンテナショップ「はままつ出世マーケット」で12月から受注販売する予定だ。

「自分で考えたものを形にできるのが楽しい」と話す生徒たち。商品の受注管理やコスト管理も勉強しながら、注染の幅広いPRに取り組んでいる。白井商事の白井成治専務は「古い業界なので生徒さんたちの新鮮な配色に刺激を受けています。注染がシャツという普段着るものになることでどう変化が起きるか楽しみです」と期待を寄せている。

浴衣染色プロジェクトで注染の染色工場を見学。染める過程や乾かす過程を、現場で匂いや温度を実感しながら学ぶ。
生徒たちが考えた配色案の中から選ばれた案は、実際に染色工場で染めてもらう。注染の特徴であるグラデーションが美しい。
白井商事の新作ゆかたのポスターを天浜線二俣駅転車台で撮影。ゆかたのデザインコンセプトも同校の美術コースの生徒によるもの。
市販するオリジナルシャツの色をカラーチップで色指定。染料の特徴など白井商事にアドバイスをもらいながら進める。

アイディアを形にする力、Art

「動画作りなどほかの高校でやっていないことが授業でできるのがいいなと思った」といった志望動機を生徒たちは口にする。ポスターや動画制作、ゆかたやシャツのデザイン、イベントなどの活動では、活躍する生徒がその都度異なったり、普通教科とは全く違う姿を見せたりする。そこには、従来の学力のように点数や数値では測れない力が活きているようだ。このように絵や写真・動画・パフォーマンスなどを通して「アイディアを形にする力」を、地域創造コースでは「Art」ととらえている。浜松学芸高校には音楽・美術・書道というArtを学ぶ芸術科があるが、普通科においても多様な個性がそれぞれに良さを発揮し、アイディアを形にして伝える力を育む、まさにArtの学校と言えるのではないだろうか。

「地域人財」を育てる学校へ

地域の次代を担う人財を育成することが、地域創造コースの目標である。浜松市では若者が大都市圏に流出している。それは「働く場所がない」からだといわれるが、実は「働く場所を知らない」からだといえる。「地域の中で、いつ、誰が、どこで、どんな仕事をしていて、それが世の中でどのように役立っているのかを知らないから、目線が外へ向くのです」とは、内藤純一校長の言葉だ。だから、地域の魅力を知り、地域の方々と協働し、地域の魅力を発信するという地域創造コースの取り組みによって自分たちの住むエリアに誇りを持つ生徒を育て、大学卒業後には地元に戻って活躍する人財を輩出することを目指している。なにより活動を通して浜松学芸高校発のイノベーションが次々と起これば、地域はさらに魅力的な「ずっと居たい」場所になるに違いない。

Topics

中学校楽しく取組む学校周辺の清掃活動
浜松学芸中学校の開校時から続いている「クリーン作戦」。日ごろ生徒たちが利用している国道152号線沿いを中心に、学校周辺の清掃活動を行っている。活動後には生徒から「通り過ぎる歩行者に感謝の言葉をかけてもらってうれしかった」というような感想もあり、中学全体で楽しく取り組んでいる。
高校 特進コース植栽、除草活動で花と緑を育てる
「天浜線 花のリレープロジェクト」は、地域活性化を目的に浜松いわた信用金庫地域貢献課が企画した活動。ボランティア部では地域貢献活動の一環としてスタート時から参加し、本年度で3年目となる。担当する地域で、3月に植栽、6~8月に除草作業を行い、花や緑のある美しい環境を作っている。
高校 科学創造コース大学と連携して高度で自由な体験
静岡大学工学部と連携して本格的なプログラミングに挑戦。Pythonというプログラミング言語を用いて、ロボットを思い通りに動かしたり、演奏させたりするなど、大学の充実した設備環境のもとで自由に創作活動を行うことができた。プログラミングの楽しさと可能性を体験して大きな刺激になった。
高校 音楽コース高齢者施設でミニコンサート
コロナ禍以前は、毎年、高齢者施設を訪問し、ミニコンサートを開催。いつも利用者やスタッフの方々が楽しみに待っていてくれる。手をたたいたり一緒に口ずさんだりして交流を楽しみ、最後は握手をしてお別れをする。「また来てね」と温かい声をかけてもらい、生徒たちは大感激だ。
高校 美術コース浜松こども館や幼稚園で創作活動
社会の中での創作体験は、実践的な制作能力や作り手としての社会性を大きく育む。昨年は、浜松こども館でのバッジ作り教室や、アソカ美波幼稚園の園庭での壁画制作を実施。それらの中で生じた予想外の問題とそれを解決した体験、出会った人々との絆は、今後の創作の礎となるはずだ。
高校 書道コース書を芸術として学び、社会とつながる
コロナ禍にあって今年の3月末から5月初旬まで、浜松市民80万人のテイクアウトプロジェクト「浜松エール飯」に看板制作で参加した。また、浜松市南区の街道や旧跡を示す道しるべも制作。文字を芸術的な美の対象として表現するだけでなく、地域社会に根差した活動と発信を行っている。